アフターコロナと新しい多摩

神岡太郎(かみおか たろう)
一橋大学 経営管理研究科 教授。工学博士。
デジタルやマーケティングの視点から企業全体がどのように機能するのか、それが競争力にどのように結びつくか、そのためにデジタル・トランスフォーメーションなどの変革をどのように行うべきかを研究している。研究論文以外に、『デジタル変革とそのリーダーCDO』(同文館出版、2019年)、『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社、2013年)、『CIO学』(東大出版会、2007年)等がある。

 

新型コロナが世界中に甚大な被害をもたらしている。しかし、自発的かそれに迫られてかは別にして、この機をポジティブにとらえている人が意外に多い。

卒業生の経営者は最悪の経営状況でも、今ほど新しいことをやる意欲に溢れている時はないとメイルしてきた。GW後にゼミの学生が最初に提案してきたディスカッションテーマは「アフターコロナの時代における新しいビジネスを考える」だった。企業のデジタル最高責任者CDOらはなかなか進まなかったテレワークがいとも簡単に実現できたことを見て、デジタル変革の絶好のチャンスだと感じている。

コロナ禍で、通常では経験できない環境を経験することで、新しいアイディアが生まれた人もいるだろう。これだけ我々の活動が物理的に制約を受けると、逆に枝葉が取れて、冷静に何が本質的に重要なことなのかが見えてくるところもある。苦しい中で、前向きな姿勢や考え方が無駄にならないようになればと思っている。

 

ここで提起したいのは、この機を、我々が住んでいる多摩という地域のあり方を新しく創造するきっかけとすることができないかということだ。

多摩に住む多くの方が、人生のほとんどの時間を危険で不愉快な満員電車と窮屈な都心空間で過ごしている。以前の通勤生活に戻りたいという方もおられるかもしれないし、経済的な意義も分かるが、多かれ少なかれ、毎日都心に出かけなくても仕事がやって行けると感じているのではないだろうか。健康への意識も高まっている。日常の中に散歩やジョギングを取り入れたりして、ライフスタイルを見直そうという人もいる。地域との接点や接触時間が増えて、普段気づかなかったことに気づくことや、今まで利用しなかった店を利用することも増えたかもしれない。

今後テレワークが推進される中で、多摩の昼間人口が大幅に増えることが予想される。自宅を中心に地域で活動し過ごす時間が大幅に増えた大人が、そこら中にいるということになる。そういった大人も加わった日常の多摩はどうあるべきかをゼロベースで考え直すことは意味があろう。単に昼間人口が増えただけで終わったり、そういう大人が邪魔扱いされたりするとなれば寂しい話になる。

 

そうではなく、多摩を新しい価値観やライフスタイルに対応した意味のある豊かな空間にデザインできないだろうか。

例えば、ワークライフバランスでもクリエイティブでも、アフターコロナの時代に何を重視するかが決まれば、そこでの活動をイメージして公園でも道でもデザインすることが考えられる。その視点から新しい地域ビジネスが生まれることも支援するべきだし、行政も新しい機能を考えるべきだろう。健康という価値観を重視するなら、今後起こり得る感染症に対応できるようにすることはもちろんだが、肉体的にも精神的にも健康的な活動が日常の中で行え、自然に免疫力や抵抗力が高くなるようにする戦略が必要だろう。

いずれにしても、多摩をどういう空間したいのか、そこでの新常態(ニューノーマル)は何なのかを考え、そこに向かう意志とアクションが必要だ。それをやるのは、「今でしょう」。ただ、何が有益なのかはやってみないとわからないところがあり、簡単ではない。

 

最後に、それに踏み込むためのアプローチの仕方にヒントになればと、3つお話しさせていただければと思う。

1つ目は、地域や住民がどういうライフスタイルを望み、そのための地域として多摩がどうあって欲しいのかについて、住民視点で多様な意見を継続的に交流させる場を作ることだ。入れ代わり立ち代わりでもいいので、そこで異なる視点・経験・能力を持った人達が化学反応を起こし、コラボレーションのチャンスを生み出せる場ができれば有益だろう。特定の誰かだけで地域を創造することはできないからだ。そしてその考えは、常に環境変化に応じて新しい要素を加えたり修正したりしなければならない。

2つ目は、これまでそういう視点で活用されてこなかった様々なリソースが多摩にあることに目を向けるということだ。例えば、多摩にはそれぞれ得意分野を持った企業がある。伝統的な産業から最先端の研究所まである。ということは多様なスキルを持った人材がいるということだ。地域と交流することで、新しい副業でその人材の能力が生かされることや、地域の社会問題を解決することが企業のイノベーションや新規ビジネスにつながることもあり得るだろう。

3つ目は、人々が安心して豊かに暮らし、新しい地域に貢献するサービスが自然に生まれてくるような地域にするために、データをもっと活用するというのはどうだろうか。嬉しい話ではないが、今後も感染症だけでなく、気候変動や地震等による様々な災害が発生することが予測されている。それが起こった場合に、直面するのは国以上に地域となる。コロナ禍の経験は、データを積極的に活用することで、安全性や新しいライフスタイルが実現できる可能性を示したと思う。情報を共有できていれば、台湾のようにマスクが混乱せずに買えたかもしれない。人流(予測)データがあれば3密を避けるような行動計画もしやすい。そういった地域のデータを使って住民のためにサービスを提供するベンチャーが生まれるのもいいではないか。もちろんプライバシー等への考慮は必須だ。

さて、このWebシリーズの最初の回が終わる。未熟な私の話にお付き合いいただきありがとうございました。ただ、これからはどんどん面白い話が投稿されると思うので、期待していただければと思っている。