フラットな対話が導き出したヒント「後押ししてくれる人を先に動かす」

課題を抱える企業や自治体が考えたテーマをクリエイターが壁打ち相手となって議論する「アイデア会議」。他者の異なる視点を通じて物事の理解を深めたり、考えを整理したり、課題解決の突破口へとつながるアイデアを導き出したりする未来志向のディスカッションの場です。
今回のプログラムオーナーは、日立製作所 研究開発グループの鍾インさん。地域の中で個人のやりたいことを見える化し、自分にとって馴染みのない地域でもつながりを生み出す仕組みづくりについて投げかけました。

●プログラムオーナー
日立製作所 研究開発グループ

●ディカッションテーマ:
よそ者の「私」のやりたいことを、街のみんなが後押ししてくれるつながりをつくるにはどうすればいいか?

多摩未来協創会議ディレクター 酒井博基(以下「酒井」)今回のディスカッションテーマは「よそ者の『私』のやりたいことを、街のみんなが後押ししてくれるつながりをつくるにはどうすればいいか?」というものでしたが、このテーマを設定した背景を教えてください。

日立製作所 研究開発グループ 鍾インさん(以下「鍾さん」)背景にはコロナ禍による暮らしの変化があります。家で過ごす時間が長くなり、自分の才能や情熱を発揮して地域に関わる余地を見いだしている人が多くなった印象を受けていました。とはいえ、いきなり地域との接点をつくり出すことにハードルを感じる人も少なくないと思います。そうした背景の下に、例えば、何かを街の人たちと議論したいとか、あるいは自分の作品を販売したいなど、個人のやりたいことを街の中の余剰スペースを使ってやってみたり、デジタルモニタリングによって街の反応を試せる仕組みができないかなと考えました。さらに、地域通貨を使ってそういった個人の取り組みを街の住民が支援する仕組みの構想を、今回みなさんに共有しました。

酒井そうした構想をアイデア会議に投げかけてみようと思ったのはなぜでしょうか。

鍾さん地域で活動する人のことを考えようとすると、どうしてもモチベーションが高い人や行動力がある人だけに目を向けがちなんです。でも実はそういう人ばかりではなくて、地域で活動したいと思っていても自分で動き出すほどの熱量がない人もいると思います。そういった人が活動を起こしやすいように、今までのハードルを少しでも下げる仕組みがあればいいなと思いました。この構想を実際に地域で活動しているみなさんに投げかけて、地域活動の実態はどうなのか、このような仕組みがあったら何かが変わりそうか、ご意見を聞いてみたかったんです。また、この構想に共感を持ってくれる方に届けて、これからご一緒するパートナーを探したいのも理由の一つです。当日のアイデア会議には、地域で活動されている方やフリーランスのデザイナー、地域の金融機関の方などが参加してくださり、多様性の高いメンバーとディスカッションできてよかったです。

酒井ディスカッションの内容はいかがでしたか?

鍾さん「よそ者の『私』のやりたいことを、街のみんなが後押ししてくれるつながりをつくるにはどうすればいいか?」というのがテーマでしたが、実際には「後押ししてくれる人」を先に動かさないといけないというポイントが見えて、そこがすごくおもしろかったです。その場のみなさんと話して分かったのは、今住んでいてにぎやかで個性的な街でも、いつか地価が上がり、チェーン店が多い画一化した街に変わる可能性もあるということ。地域の中に住む人にとっては、せっかく選んで住んでいるのなら、何とか街の個性を保ちたいですよね。何かをやりたい人のアイデアを応援するというよりは、例えば、地域の住民がクラウドファンディングで商店街の空きスペースを確保し、「こういう人に来てもらいたい」という呼びかけから始まったほうが、仕組みとしてはリアリティがあるという意見がありました。そこが正に、今まで組織の中で話しているだけでは得られなかった視点でしたね。それまでの議論の積み重ねがあるので、「そもそもターゲットはあっているか?」など根本的なところを見直す機会が少なかったりするのですが、実際に地域で動いている人たちとディスカッションすると、「ほんの少し仕組みを変えるだけでこう動き出す」という視点が出てくる。ハッとさせられました。

酒井今回は初めてのアイデア会議の開催でしたが、実際に行った感想を教えてください。

鍾さん地域の方を巻き込んだ活動は、私たちの研究にとってとても重要なことなので、会社の中でも地域での取り組みがたくさんあるんですが、地域のステークホルダーとつながり調整し、協創関係をつくっていくにはやはり時間がかかります。また利害関係もあったりするとなかなかニュートラルに関わることが難しいということもあります。今回のアイデア会議では、2時間という短い時間で地域のみなさんと構想を共有し、フィードバックもいただいて、さらにアイデアのブラッシュアップまで一緒にできるのが、ミニマムとはいえ、地域のステークホルダーと関わるプロセスを非常に素早く回している実感がありました。

立場を持たずに発言できるというのは大きなポイントだと思いました。アイデア会議の参加者はそれぞれのプロフェッショナルな「知識」はありつつも、組織の看板を背負う「立場」には関係なく、一生活者として意見を出し合うので、それがすごく新鮮でした。暮らす地域やこれまでの経験もばらばらで、それぞれのバックグラウンドがあるみなさんが、フラットに議論を広げてくださったという気がします。

酒井今後、またこのアイデア会議サービスを利用する時に期待することはありますか?

鍾さんその場での議論を、何らかの形で残せたらいいなと思いました。それを後から興味のある方が見ることができたり、SNSのようなオープンなかたちでアクションしたりということができるといいなと。アイデア会議の参加者の方たちから出た感想や率直な意見もぜひ残していきたいです。一方通行な発信にならずに、インタラクティブな要素があったらすごくいいなと思いました。