活動のフィールドが異なる人たちから聞く生の声

「多摩未来円卓会議」は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。毎回異なるひとつのトピックについて、企業や行政などが意見を交換。互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通課題をシェアする関係性をつくることを目指します。
今回は日立製作所 研究開発グループの森木俊臣さんがトピック提供者を務め、八王子市、UR都市機構、白山工業が参加。防災をテーマに議論が繰り広げられました。森木さんが円卓会議を振り返ります。

多摩未来協創会議ディレクター 酒井博基(以下「酒井」)今回発表した内容について、あらためて教えてください。

日立製作所 研究開発グループ 森木俊臣さん(以下「森木さん」)今回は、日立の研究開発グループで取り組んでいる防災アプリをきっかけにして、災害時にどうやって市民の方々の生活や避難生活に対して寄与するかということを考えたいと思いました。

インフラの話を最初にしましたが、今は「公」、つまり役所や国が提供してくれるサービスに市民が乗っかるというモデルがほぼ成り立たなくなってきています。八王子市さんもおっしゃっていた通り、やはり災害時は自助が基本になるんですよね。自分が生き延びること、それができてから初めて周りの人に手を差し伸べられるので、まずは自助を頑張らなければなりません。

一方で、民間企業に所属しつつも、プライベートではいち市民である我々には、周りの方々をなんとか助けたいという思いがある。だから、日立が得意としているITのサービスで市民の方々の力をうまく引き出したり、寄り添って手助けになることを目指したいと考えています。

参加者のみなさんは普段のビジネスとして防災というものに向き合っていらっしゃるので、当事者意識がすごく大きい。だからこそ、もどかしさを持っていらっしゃると感じました。みなさんが市民の方々をなんとか助けたいと、ソリューションの開発や市民サービスなどいろんなことをされているなかで、手が届くところと届かないところの濃淡があるのだろうなと思いましたね。

我々はこれまで官公庁向けのサービスをたくさん手がけてきて、いかにきっちり作るかということを数十年やってきたわけですが、災害はまた別なんです。たしかに大きいシステムはあるんですが、災害が市民を襲ったときに手が差し伸べられるITかというと、そういうわけではない。市民の方々に役に立つと思ってもらえるものを増やすにはどうしていくべきか、という課題がベースにあります。

酒井地震大国でもある日本では、いつなにが起こるかわからない。そのなかでデジタルがどのように人に貢献できるのかということですよね。

森木さんその通りです。円卓会議で八王子市の要支援介護者の数を聞いて、すごい人数だなと。これは、端的に言ってしまうと“人が足りない”ことを意味するんですよね。災害時に要介護者にひとり介護者をつけたところでまったく十分ではない。それが根本の問題であり、人力でなんとかなる世界ではなくなっているんだと思います。

そこにこそITが使えると思う一方で、ITだけ、機械だけを用意して救えるわけではないということに、今回気づかされた気がしました。もちろんITが果たせる役割は大きいと思うのですが、きっと我々にも、みなさんにも見えていない。でもそこにブレイクスルーがないと、みんなが困ってしまうと思います。

酒井みなさんと議論を交わした感想はいかがですか?

森木さんこういう場があってありがたいです。会社名を背負ったオフィシャルな場では、なかなか今回のようなしゃべり方はできません。

みんな困っているけれど、今すぐ解決はできない、でもどうにかしないといけないとわかっている。だから1歩踏み出して汗をかかなければいけないけれど、会社名を背負っているとその1歩が踏み出せない。そんなジレンマを多くの人が抱えているはずです。円卓会議はそういった前提条件を取り払って話ができる、非常に貴重な場ですよね。

酒井具体的なアイデアが挙がったり、意見がシンクロしたり重なり合ったりと、非常に興味深い議論でしたね。今後、円卓会議を通してどんなテーマについて話を深めていきたいですか?

森木さんやっぱり大きなテーマは「共助」でしょうか。しかも、役割が固定的ではない共助です。

たとえば「お隣さんだから助け合いましょう」ではなく、遠隔の人たちが助けてくれるような形もあり得ますよね。今は2拠点居住が広まりつつありますし、我々の研究開発グループでもリモート勤務が認められ始めています。だから実は、物理的な距離というのはほとんど障害になりません。そう思うと、自分が貢献できるところにリソースを役立てて世間に還元して、かつ会社の仕事にもプラスになれば、こんないいことないですよね。

酒井今回はみなさんが最後までその可能性を探るような意見交換になった気がします。今後、多摩未来円卓会議に期待することはなんでしょう?

森木さん研究開発グループの業務はほぼ100%リモート勤務が可能な業務です。それは、我々の感覚が世間からズレていることも意味すると思います。エッセンシャルワーカーや対面で接客されている方、屋外の仕事されているような方々とはまったく状況が違うんですよね。

だから今後は、そういう方々ともっとつながっていきたい。特にインフラに対しては、ITの側面で捉えると「なんでこれをやってないんだ」とよく思ってしまうんですが、現実は違うんだよと率直に言ってくれる人と話がしたいです。

酒井たしかに、もっといろんなプレイヤーの方が入ってくるとおもしろいですね。

森木さんそうですね、活動フィールドの多様性はすごく大事だと思います。コロナでリモートが当たり前になって、どこででも働けると言われていますが、これからは逆に身体性というか、“自分がここにいるからこそできること”を大事にする感覚が強くなると思うんです。そういうことを今のうちから拾っておかないと、浦島太郎状態になってしまうんじゃないかという恐れを抱いています。だからこそ、いろんな人とつながりたい。それで「じゃあ今度現場を見に行こうよ」など、気軽にコミュニケーションをとれる関係になれたらうれしいですね。


多摩未来円卓会議は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。
毎回異なるトピックテーマについて、企業や行政などの組織が意見を交換し、互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通課題を共有する関係性の構築を目指します。
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