対話から見えてきた、これからの地域における脱炭素の可能性

「多摩未来円卓会議」は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。毎回異なるひとつのトピックについて、企業や行政などが意見を交換。互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通課題をシェアする関係性をつくることを目指します。
第6回のトピック提供者は日立製作所 研究開発グループの森木俊臣さん。脱炭素社会に向けた地域づくりについて議論しました。

多摩未来協創会議ディレクター 酒井博基(以下「酒井」)今回のトピックは「脱炭素社会に向けた地域づくり」というものでしたが、具体的にはどういう内容のトピックを森木さんから提供されましたか。

日立製作所 研究開発グループ 森木俊臣さん(以下「森木さん」)まずは、弊社が脱炭素についてどういう取り組みをしているかということをお話しさせていただきました。私たちはデザイン部署と研究開発グループで活動していますが、脱炭素はとても重要なキーワードです。今回のトピック提供には、持続可能な社会をつくるために現状からもう一歩踏み込んで、地域に脱炭素を実装していくためのとっかかりを得たいという動機がありました。今、電力のひっ迫という問題もあり、エネルギーがどうあるべきなのかというのが、ようやく市民のみなさんに伝わってきているのかなと思いますが、一方で企業はどんな状態なのかということは、実はあまり見えていません。「2030年に向けて脱炭素を目指します」とか、「グループで完全にカーボンニュートラルにします」などのフレーズは聞きますが、そこに向かって様々な企業が実際に第一歩をどう踏み出そうとしているのかを、実感として掴みたいという気持ちがありました。また、それに向かって私たちがどういうお手伝いができるか、どういう協力体制がつくれそうかなどお話ししたく、トピック提供させていただきました。

酒井森木さんは、地域でエネルギーを地産地消する自立分散型の社会のような仮説を立てていました。そこでまずは災害などの有事に向けてEVの活用を準備していくのが社会実装へのとっかかりになるんじゃないか、というのが今回の議論の起点になったかと思います。森木さんの仮説と、議論して見えてきた現状のギャップはいかがでしたか。

森木さん今回はバス会社の方とお話しさせていただきましたが、外部調査ではなかなか見えてこない企業のリアルなお話が聞けたのは本当にありがたいことでした。従来のバス会社の事業モデルがある中で、新たにEVを導入することで起こる歪みが理解できましたし、ニュースなどでは華やかに見える脱炭素やEV推進事業の現実の厳しさが片鱗だけでもうかがえてとてもいい機会でした。

環境に関しては、日本は脱炭素に対する意識がまだまだ低いのですが、そもそも脱炭素はとても深遠なテーマです。エネルギー変革の時代だからこそ起こる話なので、既存のものを変えていかないといけないということになります。そういった仕組みづくりについては、自治体も企業も市民も、国が決めて上からお金が降りてくるということに慣れてしまっているのが現状です。本当はそれぞれの地域で、「自分たちのまちはこういう理由があるからEVを使う」「風力にする」「地熱をがんばる」っていうのを決めていかないと、脱炭素の仕組みはできていかないと思うんです。そこで、そうはいっても現状の事業モデルをどうするんだ、というのが企業にとっては一番の本質的な課題になるということなんですよね。

酒井だからこそ国や自治体、企業、市民が、それぞれメリットを見出しながら進めていく「協創」というキーワードがふさわしいテーマなのだと思います。企業が動き出すためにはどういう状況を整えていくべきなのでしょうか。

森木さん例えば、バス業界は大変な状況にあることはわかったので、どうやったらそれができるようになるのかというビジネスモデルをみんなで考えていく方がいいと思いました。

地域においては、やはり根本にある自治のあり方に対して、少しでも風穴を開けられるところを見つけてやっていくのかなと思います。例えば、山林が多い地域であれば木質バイオマスや間伐材のエネルギー化などが考えられます。また、ソーラーシェアリングといって、市民農園に太陽光パネルを置いて、援農をしながら発電収入を得て市民に還元するということをやっている地域もあります。そういった“隙間”を探して地域の価値を見つけ、自走しながら地域の活性度を上げていくようなストーリーをつくっていくのがいいのかなと思っています。

酒井今後また円卓会議の場を活用するなら、どういう議論をしてみたいですか。

森木さんエネルギー系であれば、今の話のように自分のまちだったらどうやって価値をあげていくかとか、防災ならどんな状況だったらほかの地域に自分たちのまちの電気をあげられるかなどのアイデア出しをしてみたいです。そのときに企業としてどういう関わり方ができるか。これまではCSRだったところを、自社の事業としてどう貢献できるかという考え方に切り替えていかないと、企業はこの先成り立っていかないと思います。

企業が地域に対してできることは、雇用を生み出して経済を活性化させるということもありますが、そこに加えて環境負荷を減らしていったり、地域のいい規律や文化をつくっていくなど、まだまだできることがあると思っています。それをどう実現できるかというところを、ぜひ円卓会議で一緒に考えたいです。


多摩未来円卓会議は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。
毎回異なるトピックテーマについて、企業や行政などの組織が意見を交換し、互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通課題を共有する関係性の構築を目指します。
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