資源循環への意識変革を考える。地域に必要なサーキュラーデザインとは?

「多摩未来円卓会議」は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。毎回異なるひとつのトピックについて、企業や行政などが意見を交換。互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通の課題を探索することを目指します。

今回のトピックはサーキュラーデザイン。日立製作所研究開発グループが、地域循環社会への貢献を通じて新事業の可能性を探索するプロジェクトの一環で実施した、プラスチック循環の実験「キャップノソノゴ」の振り返りを起点に、地域のサーキュラーデザインについてディスカッションを行いました。

member
  • 萩原修(シュウヘンカ 共同代表/明星大学 デザイン学部 教授)
  • 帰山寧子(ビオフォルム環境デザイン室)
  • 岩嵜博論(武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授)
<日立製作所研究開発グループ 社会イノベーション協創センタ>
  • 曽我修治(社会課題協創研究部 プロジェクトマネージャ)
  • 金田麻衣子(サービス&ビジョンデザイン部 主任デザイナー)
  • 白澤貴司(サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任デザイナー)
  • 神崎将一(サービス&ビジョンデザイン部)
<ファシリテーション>
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

視点と思考を生み出す体験

「『身の回りにあるモノから新しいモノを生む』プロセスへの参加機会を提供する」というパーパスを掲げ、実践を通じてサーキュラーデザインを探索する、「Hitachi サーキュラーデザインプロジェクト」。2022年11月に、市民参加型でペットボトルのキャップを集め、粉砕して手動射出成形機でボタンとして再生させるという、プラスチック循環の実験・キャップノソノゴを実施しました。

日立製作所研究開発グループのYouTubeチャンネル「Hitachi Global Research」
https://youtu.be/GlEFwh2XUEI

今回の円卓会議は、トピックを提供した日立製作所研究開発グループのメンバーと、ともにキャップノソノゴの立ち上げに参加した萩原さんと帰山さん、そしてキャップノソノゴのイベントに参加してくださった武蔵野美術大学でサーキュラーデザインの研究を推進されている岩嵜さんという顔ぶれ。まずは金田さんの、「キャップノソノゴとは、果たして何だったのか」という問いかけからディスカッションが始まりました。

神崎さんからは、キャップノソノゴのプロジェクト内での振り返りが共有され、「体感」「連想」「貢献の把握」「生活の中での実行」という、参加者の行動や発言から導き出した、生活者が資源循環の視点を持つための4つの経験価値の提示がありました。

「今回のボタンをつくる手法は、溶かしたペットボトルのキャップを型へ押し込んで成形するというもので、実際に身体で機械のパワーを感じながら、キャップから新たなものをつくるということが体感できました。視覚的にも、成形したボタンの色から元の商品を連想できる。これは大切なポイントだと感じました。さらに、ペットボトルのキャップを回収に出す行為が身近なように、別のものへとつくり直す経験が日常生活の中で体験可能になると、資源循環に対する自分自身の貢献を実感しやすいのではないかと感じました」と神崎さん。

萩原さんはキャップノソノゴを振り返り、素材となったペットボトルのキャップ集めをしながら、初めて意識を向けたというプラスチック製品が生み出される過程について話しました。
「このキャップを誰がどこでどうやってつくっているのかという、もっと手前のことが気になり出しました。多くの人が、プラスチックの製品を型に流し込んでつくるということを知らないと思うし、自分が使ったあとの素材で新たなものをつくるというのは、あまりない体験なのかなと」

“ソノゴ”を考えることで初めて意識する“ソノマエ”のこと。資源循環に対する認識変化が、循環のための素材を集める段階ですでに起きていたことが見えてきます。

場を開いてプロセスに関わる機会をつくり出す

キャップノソノゴの取り組みは、国分寺市の住宅街にあるビオフォルム環境デザイン室で行われました。事務所の前に置かれた屋台ではコーヒーや地域の野菜が販売され、通りがかった地域の人たちが足を止めたり、立ち寄ったりする姿が見られました。参加者の一人であった岩嵜さんからは、キャップノソノゴでつくったボタンの役割についての視点が投げかけられました。

「射出成形は普段身近なところでは目にしないので、それが目の前で見られて、自分の手でできるというのは大きな意味があったと思います。私はたまたま参加してボタンをつくらせてもらいましたが、先日台湾に行った際に、ジャケットにつけていたこのボタンに興味を寄せる人たちがいて、この取り組みを説明して、再生されたボタンがコミュニケーションの媒体になっていましたね。“バウンダリーオブジェクト”といって、異なる領域をつなぐものという概念がありますが、このボタンは正にそれだと思いました」

それについて神崎さんは、メディアという位置づけでボタンを捉え、語りやすくするためのデザインに触れました。
「自分でつくったり、関わっていたりすることで、それについて語りやすくなるというのはあるかなと。単純にリサイクル素材を使った製品を持っているということとは違うと思うので、もしこのボタンを商品化していくことを考えるとするならば、つくり手と受け手の関係性の曖昧さをどう考えるかが重要だと思います」

続いて曽我さんも、キャップノソノゴでボタンをつくることになった理由について、次のように話しました。
「箸置きやキーホルダーという案も出ましたが、消費する商品や余剰のものをつくり出すのではなく、ものを生産するための道具のようなものをつくりたかったんです。自分たちで金型をつくろうとしていたこともあり、技術的に可能なものということでボタンに決まりました」

何かと何かをつなぐためのプロダクトであるボタンが今回のプロジェクトで採用されたことについて、岩嵜さんは「とても秀逸」と評価します。それだけでは役割として完結しないボタンだからこそ、参加者がそれぞれの発想で身につけ、人の目に触れてコミュニケーションを生み出したのかもしれません。参加者へのアンケートからも、多くの人が循環のサイクルを考えるきっかけとなったことがうかがえました。

キャップノソノゴの会場として場所を提供した帰山さんは、現場を通して見えた景色や気づきを共有しました。
「普段は建築事務所ですが、当日は建築に関係なく誰でも立ち寄れるように、というマインドで場を開いていました。こちらが場をコントロールしようとせず、来る人に委ねるような気持ちでいたためか、色んな人が立ち寄ってくれましたね。ボタンをつくったりコーヒーを飲んだりして滞在時間も割と長くなるので、コミュニケーションが始まったり、新たな企画が持ち上がったりということもありました。普段は閉じられた住宅街で見えてこない人の姿が少し見えたような気がします」

今回の取り組みでは、ペットボトルのキャップを集めるために、ビオフォルム環境デザイン室を含む市内の4か所に回収スタンドを設置していました。ゴミ箱や段ボールを置くのではなく色別に回収できるような仕組みをつくることで、ペットボトルを捨てる人に、キャップを「納める」または「託す」ような意識が生まれるという気づきもあったと神崎さんが説明しました。これに関連し、循環サイクルの中にある「手放す」という行為については、「まだデザインする余地があるのでは」と曽我さんもいいます。

さらにプロジェクトの方向性についても、曽我さんは次のように話しました。
「プロジェクトのパーパスを決めるにあたり、『身の回りにあるモノから新しいモノを生む』ということにあらゆる人がどう関われるかと考え、ものをつくるスキルがあってもなくてもそこに関われる、そのプロセスに関わる機会を提供することを入れ込みました。また、大量生産・大量消費の社会と循環型社会の対立構造ではなく、必要に応じて選択できる“間(あわい)”をつくっていくということを、方針として考えています」。

それを受けて神崎さんも、
「循環の対象として、土に還るものとプラスチックがある場合、射出成形するようなものづくりは、コンポストのように生活に身近なものに比べると、参加へのハードルは高いのかなと感じていて、そこは今後考えていくべきところ」と、この先の課題について話しました。

あるけれども見えにくい、現代の循環のサイクル

さらに岩嵜さんは、循環型社会にするための視点として、「見える社会・見えない社会」という切り口を、ご自身の体験をもとに語りました。

「僕たちがいる社会は今も循環してはいるのですが、その循環の前後が見えない社会になりすぎている。それを少しでも見えるようにしていくことが必要なんだと思います。以前、日立の工場で冷蔵庫を解体するところを見学させていただきましたが、まだ使える冷蔵庫が解体されてどんどん小さなパーツになっていく。それまで私は冷蔵庫を買い換えることに心理的な負担があったのですが、あの大きな塊がちゃんとリサイクルされていく様子が見られたことで、その負担が解消されたということがありました。これは自分にとっては衝撃的な体験でしたね」

ここから言えることとして、「循環していることを感じられていれば、使わなくなったものはリサイクルに出して新しいものを買うという消費のスタイルが定着する」と岩嵜さんは予測します。むしろ、循環の可視化が不十分であることが、経済を滞らせる一因となっているのかもしれません。

ものを廃棄することへの罪悪感については、建築業界でも共感できるものであると帰山さんはいいます。
「自分の仕事が土地を痛めているのではないか、無駄なものを生み出していないかなど、建築家もあらゆるところにストレスを抱えながら仕事をしています。最近では、仮設建物を木材から細かいビスまできれいに解体して、また別のところで使うケースもあります。分解できたり再利用できるということは、つくる側にも使う側にも安心感になりますし、建築においてもやはり見える化が必要なんだと思います」

江戸時代にはできる限り地域でつくって消費し、再利用し、最後は燃やして灰にするという、その循環が暮らしの中で、誰もが把握するサイクルとして成り立っていました。現代の都市の中の住宅地では、その循環があまりにも見えないということが、一つの論点として浮かび上がってきました。キャップノソノゴの取り組みは、建築事務所の前に屋台を出すことでその壁を打ち破り、立ち寄った人に循環のサイクルを体感させ、今まで見えていなかった地域の人たちがつながるきっかけともなりました。これをイベントで終わらせず、日々の暮らしの中に溶け込ませていくには。議論はさらに進んでいきます。

「知らない人同士がもっと気軽に話ができるような状況がまちに増えないと、なかなか交流は進まない」と萩原さん。建物の中でもなく道路でもない、その間をつなぐような入口前のスペースに屋台を出したことが、道行く人の足を止めやすかったと金田さんはいいます。こうした場が地域の中のあちこちに増えていくことが、住宅地を豊かにしていくことなのかもしれません。さらに、循環を見えなくさせている一因として、岩嵜さんは市場の大きさを挙げました。

「市場の影響力は大きいので、そのリデザインが必要なのではと思います。小さな規模の市場は人間的な取引の場になっていく。そういうものを今再現できれば、そこに大量生産と循環型社会を両立させるヒントがあるのではないかという気がしています」

さらにここから話題は意識変革やSDGs、量り売りなどのキーワードを手がかりに、議論が尽きることなく続いていきました。この円卓会議を経て、Hitachi サーキュラーデザインプロジェクトは次のフェーズへと進んでいきそうです。


多摩未来円卓会議は、企業×企業、地域×企業の個々のつながりを深めることを目的とした情報交流会です。
毎回異なるトピックテーマについて、企業や行政などの組織が意見を交換し、互いの理解を深め、協創プロジェクトへとつながる共通課題を共有する関係性の構築を目指します。
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