市民発の公園づくり。みんなが利活用できる、これからのパブリック

地域活動から社会のきざしをとらえ、気づきを得る「地域×企業」の対談インタビュー。JR中央ラインモールの水野聡美さんと諸井和也さんが、公園の管理や、緑のある場所を舞台にした市民とのさまざまな活動に取り組むNPO birth 佐藤留美さんを訪ねました。

JR中央ラインモール:
2010年にJR中央線三鷹~立川間が全線高架化されたことで生まれた高架下の空間を使い、街の価値を高める活動を行っている。武蔵境や東小金井など5つの駅にある商業施設「nonowa」や、駅間の高架下に店舗や工房、公園、ガーデンなどが立ち並ぶ回遊歩行空間「ののみち」を運営。さらに、地域の人たちと連携してさまざまなイベントを開催している。

NPO birth:
2001年設立のNPO法人(任意団体設立は1997年)。人と自然が共生できる社会を築くことを目指して、人と自然、人と人をつなぐ活動に取り組む。多摩エリアを中心とした71公園(都立17公園、西東京市立54公園)の管理運営業務を担い、パークコーディネーターやパークレンジャーを配置するなど、市民団体や企業CSR部門、公園や民有緑地にまつわるプロジェクトを中間支援組織としてサポートしている。

Q.パークコーディネーターの仕事について教えてください。

NPO birth 佐藤留美さん(以下「佐藤さん」)NPO birthが管理運営を行っている公園では、パークコーディネーターを配置しています。彼らの主な役割は、公園を舞台にした市民発のプロジェクトを、市民と一緒になってつくりあげていくこと。たとえば、武蔵国分寺公園で開催している「PICNIC HEAVEN」は、30〜40代のお父さんたちが企画したイベントです。「パパになって子どもと公園に行くようになったけど、ほかの親子ともいっしょに、もっとおもしろいことができないか」「公園でキャンプやピクニックしながら、みんなでワイワイ楽しみたい」という相談を受けたことから始まりました。

2015年から武蔵国分寺公園で開催している「PICNIC HEAVEN」の様子(2019年)。国分寺市内の店が多数出店するほか、音楽ライブやDJ、スポーツ体験やハンドメイドのワークショップなど、大人から子供までゆったり楽しめる。

佐藤さん市民が公園でなにかイベントなどやってみたい、と思っても、どうやったら実現できるか、なかなかわからないですよね。実際に占用許可を取ろうとすると、都市公園法に準拠し、自治体の後援名義が必須など、さまざまなハードルがあります。そこで私たちは、「『あったらいいな』をみんなでつくる公園プロジェクト」として、市民が自分たちで企画し実現できる仕組みをつくっています。私たちのような公園管理のプロがバックにいることで、きちんとルールに則って安全に実施できるというお墨付きが生まれ、スムーズに開催することができるのです。

武蔵国分寺公園では、「『あったらいいな』をみんなでつくる公園プロジェクト」を通して、地域のアーティストやカフェ、絵本屋、農家など、さまざまな立場の人たちが、公園を舞台にやってみたい!と思うことを次々に実現している。

左から、JR中央ラインモールの諸井さん、水野さん、NPO birthの佐藤さん。

Q.市民との連携が生み出すものとは?

佐藤さんイベントを通して出展者や参加者同士が友達になって、人の輪が広がっていきます。偶発的な出会いから、新たなコミュニティビジネスが生まれることも。地域の人やモノ、お金といったリソースが循環することで、街が豊かになっていきます。私たちが武蔵国分寺公園の管理に携わって10年が経ち、周辺の人口は確実に増えました。特に若い世代に人気のエリアで、公園に隣接する小学校は教室が足りなくなるほどです。

公園は、地域のさまざまなリソースを結び付け、循環・発展させることができる。

佐藤さんJR中央ラインモールさんが運営している「ののみち」のコミュニティガーデンには立ち上げ当初から関わっています。線路って長くつながっているので、街が変わってきているのがすごくわかるんです。実際、「高架下が明るくていいね」という話はよく聞きますし、最初の植え付けに参加してくれた人や、定期的に開催している植え替えイベントの参加者のなかには、常連になっている人もいて。普段「ののみち」を通りがかったときにもゴミを拾ってくれたりして、コミュニティが生まれているんです。

JR中央線武蔵境駅の近くにあるコミュニティガーデンは、全5回の市民参加のワークショップにより完成した(2014年当時)。宿根草と一年草を組み合わせたことで、植えたときは小さかった株が今では大きく成長。見応えのある花壇となって街に彩りを添えている。

ガーデニングイベントに参加した親子の様子。子どもに土いじりをさせたいと参加する親子も多い。

Q.公園などのパブリックな場づくりに、市民を巻き込むようになった経緯は?

佐藤さん公園ってつまらないなって、ずっと思っていたんです。“自分たちがそこでなにかをやれる場所”ではなく、“いろんな制限があって、行政が用意したモノやコトを受け取るだけの場”のように感じられて。これは管理側になってわかったことですが、なんでも禁止されているのにはワケがあるんです。たいていの自治体は何百という数の公園をごく少ない人数で管理していて、市民からの苦情や要望への対応に追われています。本当は禁止にしなくてもよいことも、一元的に管理しないと手が回らない。サービスを与える人VS受け取る人、というだけの関係だから、そうなってしまうんですよね。そして、「公園って使えないところだね」と言われてしまう。

私はNPOを設立してすぐにアメリカへ渡り、インターンとして街づくりの活動を体験したのですが、そこで見た光景は、日本とはまったく違うものでした。パブリックな場づくりの主役は市民で、行政、企業など事業者が協力し合い、街をよりよくしようとしている。その中心にあるのが、公園などのみどりのオープンスペースで、地域を活性化させる起爆装置のように使われていました。

これを日本でもやりたい!と(笑)。公園をもっと、みんなの“縁側”のように使えるように、市民の思いや考えをていねいに聴いて対話して、いろんな人たちのチャレンジを、夢を叶えられる場になったら、街が変わっていくと思ったんです。

JR中央ラインモール 水野聡美さん(以下「水野さん」)市民の方のコミットを引き出すというか、自分ごととして捉えてもらうためのポイントはありますか?

佐藤さんみなさん、必ずなにか秘めている想いがあるはずなんです。“火のないところに煙は立たない”は、逆に言えば“火のあるところには煙が立っている”かなと(笑)。その煙に気づいて、ちょっといい風を送れば、見えなかった「想い」という火が姿を現します。パークコーディネーターは、その煙を見つける役割なので、公園で待っているだけではなく、街なかに出ていきます。街づくりに関心ある人たちの集まりに顔を出したり、ユニークな活動をしている事業者さんやアーティストを訪ねたり。この人とあの人が出会ったら面白いことが起こりそう、とか、人と人をつないでいくうちに、ひとりではできないけど、仲間がいればできるかなと、新しいプロジェクトが起こっていく。各自の「想い」が見える化することで、みんながワクワクしながらコミットし合えるんです。そのための環境を整えていくのが、パークコーディネーターの役割です。

パークコーディネーターは、アウトリーチ、マッチング、コーディネートといった段階を踏んで、人と人、公園、街をつないでいく。

Q.これからの時代、「グリーンインフラ」と呼ばれる都市の緑地は、どんなふうに運営していったらよいでしょう?

佐藤さん「グリーンインフラ」とは、自然環境が有する機能を、社会におけるさまざまな課題解決に活用しようとする考え方です。気候変動やこのたびの感染症など、都市災害が頻発している現在、都市におけるみどりの役割はますます注目されています。国土交通省も、今年「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」を発足しました。これからは、公有地だから、民有地だからという括りではなく、緑地は都市の財産として見なされていくと思います。

その意味で、先ほどお話した高架下のコミュニティガーデンは、まさに民有地におけるパブリックスペース。そのような場が街なかに増えていけば、人のつながり、安心安全な街、豊かな暮らしが現実となり、クオリティ・オブ・ライフが高まっていくはずです。今話題のSDGsの達成、つまり持続可能な街づくりのためにも、「グリーンインフラ」は都市の最重要インフラと言えるのです。

今、企業の方々から、所有する緑地の利活用についての相談が増えているのもそういった背景があります。プライベートでもありパブリックでもある、重層的な機能を持った緑地のマネジメント手法が求められています。

「グリーンインフラ」が持つ、さまざまなポテンシャル。これらの力を引き出し、活かすことにより、持続可能な都市づくりに貢献することができる。

Q.中間支援組織の重要性とは?

水野さんお話を聞いていて素晴らしいなと思ったのが、街に点在している地域課題に対して住民のみなさんが問題意識を持つことから始まって、それを解決していっているというところです。我々もいろんな活動をしていますが、果たしてそこをちゃんとできているのかなと思いました。自分たちだけが課題だと思っていることをただやっているだけじゃないかとか……。みなさんが本当に課題だと認識しているのかを、対話を通して確かめるべきですね。

佐藤さん企業のみなさまからは、地域とつながるために、なにをきっかけに、どこから話をすればよいのかという相談も多くあります。住民との懇談会を開こうとすると、警戒されてしまったり、苦情や要望を言うだけの場になってしまうこともあるんですよね。対等な立場で話し合っていくために必要なのは、間に入って通訳的な役割をする存在です。また、多様な人たちが集まる場では、さまざまなトラブルも起こり得ます。イベントでの事故などを未然に防ぐなど、リスクマネジメントも重要です。私たちは中間支援組織として、異なる立場の人々が力を合わせて目標を達成するために、さまざまな面からサポートをしています。

水野さん駅も、お客さまを集めるというミッションがある一方で、集めすぎると通路がふさがってしまうなど、リスクはけっこうあります。

JR中央ラインモール 諸井和也さん(以下「諸井さん」)僕が勤務しているnonowa国立もそんなに広いスペースではないので、お客さまが来すぎてしまうと流動阻害になってしまいます。イベントを中止することにもなりかねないので、そのあたりのバランスにはすごく気を遣っています。

水野さんなにより、今までは人を集めるのが良しとされてきた価値観が、コロナで大きく変わってしまって。これからは、そういうところとも向き合いながらやっていかないといけないですね。

佐藤さんコロナの影響で、身近な公園や「ののみち」のような緑道が非常に注目されました。今までは「にぎわい」が求められてきましたが、これからは「ゆとり」や「余白」がキーワードとなりそうです。人々が集中してしまわないよう、このようなみどりの空間が、街の各所に点在しているとよいですね。「ののみち」から、街なかの街路樹や公園、住宅の庭などに、みどりの動線がつながっていくと素敵です。日常の暮らしに溶け込むように、みどりが存在している街は、ウィズコロナ時代に「選ばれる街」になるのではないでしょうか。

Q.今後、「ののみち」のような、鉄道インフラに付随する公共的な場所に期待することはありますか?

佐藤さん鉄道インフラに関する場所をグリーンインフラ化するという発想は、海外でも実践されていて、大きな経済効果を生み出しています。たとえば、ニューヨークの「ハイライン」やソウルの「京義線スッキル公園」。線路の跡地を利用した公園が観光名所になって、街に活気が生まれています。

「ハイライン」は、ニューヨーク市マンハッタンにある廃止された鉄道の支線の高架部分に建設された全長2.3kmの公園。市民の発案から整備され、NPO「フレンズ・オブ・ハイライン」が運営している。年間の来園者数は500万人超。周辺の不動産価格は高騰し、場末感のあった街が見事に生まれ変わっている。

ソウル市にある「京義線スッキル(森の道)公園」。地下化された鉄道(京義線)に沿って地上に造成された6.3㎞の公園。公園ができてから、沿道におしゃれな飲食店が一気に増えて街の景観が大きく変わった。園内にあるブックストリートは書籍関連のNPOが運営をし、さまざまなイベントが行われている。

佐藤さんハイラインでは、中間支援の役割をNPOが担い、プロのガーデナーと熱意のある市民ボランティアが美しい景観を作り出し、多くのイベントやガイドツアーが開催されています。一方、「ののみち」は、東京の中央を東西に走る中央線の高架下にあり、周辺は住宅地に囲まれています。廃線で場末だったハイラインがここまで復興したことを考えると、「ののみち」にはハイラインに負けないポテンシャルがあると思います。

私たちが「ののみち」でガーデンのワークショップを開催したとき、参加者のほとんどが沿線の住民でした。「暗いイメージの高架下がガーデンで明るくなり、とても嬉しい」「参加したことでガーデンに愛着が湧いた。これからもずっと関わりたい」「一般市民が、企業の所有する土地で活動できるなんて、とても驚いた。やりがいがある」など、たくさんの声をいただきました。自分の手でガーデンをつくる。あるいはイベントを企画する。そのことが、こんなにも自分ごととしてコミットする気持ちを生み出すのだなと感激しました。

年に数回のイベントや植え替えに参加してもらうだけでも、「ののみち」に心を寄せる人は増えていくはずです。前述した国分寺のように、ここに住む人々が「ののみち」をもっと美しく、楽しい場所にすることで、人が人を呼び、沿線の人口が増え、電車の利用客も増えるはず。ユニークなベンチやガーデンをつくったり、マルシェを日常的に開催したりといったことも、市民の発案でより柔軟にできるのではと期待しています。

高架下の広々とした空間は、街なかの貴重なオープンスペース。武蔵野ぽっぽ公園は、武蔵野市とJR東日本グループとが連携して整備。鉄道をテーマに、汽車をモチーフにした遊具や実際に使用していた鉄道設備、レールや枕木を活用したコミュニティガーデンがある。

諸井さんそういうところは、民間企業の強さかもしれません。モノを売ったりするハードルも低い。民間ならではのポテンシャルを、もっと公共化していくっていうことですね。

佐藤さんそうですね。これからは、企業の取り組みの方向性が、街づくりの未来を決めるといっても過言ではないと思います。そこにどれだけ地域にあるポテンシャルを取り込んで、“ここにしかない価値”を生み出していけるか。そんな“協創”の場を、ワクワクしながら一緒に創っていければと思います。