駅を舞台に活動する市民参画型の小さなコミュニティをつくるには?

プログラムオーナーが「Dialog」「Monolog」を通して立てた問いに対しての“解”を探るミートアップ。地域で活動している3名の参加者が順番に発表し合い、プログラムオーナーとの協創の可能性を探ります。具体的な事業イメージも盛んに発案され、それらを組み合わせて新しいアイデアが生まれるシーンも。全員参加の議論の様子をレポートします。

member
<JR中央ラインモール>
  • 水野聡美(営業本部 沿線活性化推進プロジェクト マネージャー)
  • 有座邦雄(取締役 営業本部長)
<ファシリテーション>
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

子どもと大人をつなぐ循環型コミュニティ

トップバッターは、「メインの肩書きは“小学生の保護者”です」と自己紹介した小坂昌代さん。ふたりの小学生を育てながら、PTA会長を務めたり、地域のコミュニティ活動に携わるなど、さまざまな活動をしています。「子どもと街や企業、大人をつなぐきっかけが見つかれば」と思い、ミートアップに参加したそうです。

小坂さんは、子ども向けを中心としたワークショップの企画を考えてきてくれました。

「withコロナでは、大きなイベントより、心に残ったり、気づきのあるような、小さな連続ワークショップがいいんじゃないかなと思いました。そして、過程の様子もWebで発信していけたら」

企画のひとつである「子ども古本屋」は、街の古本屋で抱えている廃棄待ちの本から、小学生が好きなものを選んで“仕入れ”を行い、自らが店主となって販売するというものです。

「古本屋さんに行ってみて一般の書店との違いや仕入れのコツを聞き、店に並べる本を選んだり、店の名前や看板のデザイン、どうやったら売れるんだろう?といったことを考えるワークショップを4回ほど行います。そのうえで、実際にお客様をお迎えするマルシェのようなイベントができたらいいなと」

さらに、街の大人に取材をして記事を書く「子ども記者になろう!」、地域の工場から譲ってもらった端材で作品をつくる「端材で作る僕だけの宝もの」の構想も発表。どの案にも、子どもの経験になるだけでなく、子どもと街の大人たちをつなぐ要素が盛り込まれています。

「プロセスを見せていくところがいいですよね」と、JR中央ラインモールの有座さん。

「苦労もあえてしっかりと伝えていくことで、参加者たちもイベント当日を迎えるときには『ようやくできる!』っていう気持ちになる。プロセスも含めて巻き込んでいくっていうのが、まさに“参加型”ではなく“参画型”だなと感じました」

同じくJR中央ラインモールの水野さんは「私たちは高架下にプログラミング教室のスペースを持っているんですが、営業時間外にそこでワークショップをやるのもいいかもしれません」と話しました。

企業と協創したい理由を聞かれ、「地域の人たちだけで手作りするイベントもいいのですが、外部の目が入ることで活動や内容に広がりが出ると思うんです」と小坂さん。それに対し、多摩未来協創会議ディレクターの酒井は「JRが持っている安心感によって、関わる人たちの間口が広がるかもしれませんね」と話し、こう続けました。

「大人だけのコミュニティは、醸成されると閉鎖的になっていくことも多いのですが、子どもたちの場合は成長過程でコミュニティを離れていきます。そしてまた新しい子どもたちが入ってくる。人が循環していく点も、継続性があって良いと思います」

南北の動きが街づくりの足がかりに

続いて発表した有賀達郎さんは、インキュベーション施設でコーディネーターを務める傍ら、西東京市、特に西武新宿線沿線のエリアをメインに街づくりの活動をしています。JR中央ラインモールとの協創を通して、街づくりのヒントを持ち帰れたらと参加を決めました。

西東京市は都心までのアクセスがよく住みやすい一方、大きなランドマークがないこともあり、愛着を持っている人が少ないと感じている有賀さん。ずっと住み続けたいと思ってもらえるような街にするための足がかりは、“南北の移動”にあると言います。

「都心に西武新宿線と中央線は平行していて、すぐ行き来できるにもかかわらず、街どうしの接点はほとんどないんですよね。多摩エリアは南北の人の動きが少なく、それがもっと活性化してくればエリアの文化が変わってくるだろうと思うんです」

有座さんは「今は自家用車や電車での移動がメインですが、シェアライドなどが広がっていったら、エリアがつながって人の動きがもっと出てくるはず」と話し、「なにを仕掛けたら動くのかな。イベントだけでは動かないですし、そもそも人を多く集めるイベントはこの状況下では難しい。でも、なにかしらの動機づけは必要ですよね」と提起しました。

出席者が意見を出し合い、なかでもアプリで人を動かすという案が注目されました。
歩くことで健康状態のステータスが変化し、それに合わせたスムージーが駅の店で飲めるアプリ、街のポイントに立ち寄ることでプライズがもらえる地域限定位置情報アプリなど、出されたアイデアはさまざま。アプリのほかにも、地域のカラーを色濃く出した“そこにしかない”コワーキングスペースをつくるといった意見があがりました。

「さっき子どもの行動範囲が狭いっていう話題が出ましたが、大人も案外狭いのかもしれないですね」と有座さん。「地域の面白さを伝えるために、バスツアーとか、強制的に連れていくようなイベントがあってもいいのかもしれません」と語りました。

“好きなこと”でつながり、社会課題の解決へ

最後に発表したのは、大手ゲーム会社に勤務し、現在は独立してゲームやアプリの制作を行っている江波戸天仁さん。3人の男の子を育てる父親でもあり、長く暮らしている小金井の街をよくしていけたらという思いから参加しました。

コロナ禍を経て、少人数のコミュニティの価値が見直されると考えている江波戸さん。

「家族や会社以外の新しい居場所を作ってあげることが、コミュニティの大きな役割だと思っています。さらに、コミュニティをつくることによって、社会課題を解決することにもつなげたい。人が集まるには共通の関心ごとが必要ですが、それをなにに設定するかを考えました」

ここからは、江波戸さん自身の趣味やライフスタイルをベースにしながら、さまざまなアイデアを語ってくれました。
たとえば、「高架下スポーツパーク」。武蔵境と東小金井の間にある高架下のスペースに、バスケットコートなどを設置したスポーツ施設をつくりたいというものです。

「コロナで屋内スポーツができる場所が減っているので、こういう場所があったらうれしいですね。朝の時間帯には高齢者がラジオ体操をしに来たりとか、いろんな年齢層の方に利用してくれたらいいなと思います」

さらに、子どもが自由におもちゃで遊べるカフェ、遊んで学べるゲームスクールなどの案も。学生が地域の飲食店のデリバリーをするサービスや、パン屋などの売れ残り情報の発信、街の店で使えるクーポンなどを内包した“ローカルアプリ”は、アプリ制作のプロである江波戸さんならではの発想もありました。

発表を聞いて「今、飲食店って特にアイドルタイムだとガラガラだったりするので、その時間帯にスペースを借りておもちゃカフェをやるとか。密にはなりたくないという消費者の気持ちと、客の少ないアイドルタイムをなんとかしたいという店の気持ちの両方を満たすことができます」と有座さん。

小坂さんからは「学校に行きづらい子が、学校でもなく家でもない、楽しそうな場所が地域には絶対に必要なのですが、今はほとんどありません。そういう場所もつくれたらいいですよね」という意見があがりました。

議論は尽きず、「せっかくこのメンバーで集まれたので、参加者同士の企画を組み合わせられたらいいですよね」と水野さん。2時間半にわたるミートアップ終了後の交流会でも、あちらこちらで意見が交わされることとなりました。

具体的なアイデアが飛び交った今回のミートアップ。撒かれたたくさんの協創の種をもとに、JR中央ラインモールと参加者、あるいは参加者同士の間で、社会実装や事業化に向けた検証が続いていきます。