駅だからこそできる、新しい市民参画の形

前回行ったNPO birthとの「Dialog」を振り返りながら、JR中央ラインモールが「地域×企業」の問いを抽出するための社内会議を開催。駅というニュートラルな場だからこそできる、豊かな暮らしをつくるための取り組みとは? JR中央ラインモールの4名と多摩未来協創会議ディレクターの酒井博基が議論し、7月30日(木)開催のミートアップ会議に向けたテーマを設定する。

member
  • 水野聡美(営業本部 沿線活性化推進プロジェクト マネージャー)
  • 諸井和也(nonowa国立 チーフ)
  • 有座邦雄(取締役 営業本部長)
  • 岡村佳子(開発本部 nonowa国立・西国分寺 マネージャー)
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

住民の発意が継続性につながる ― NPO birthとの「Dialog」を振り返って

酒井博基(以下、酒井)水野さん、諸井さん、先日のDialogではどのような気づきを得ましたか?

水野聡美さん(以下、水野さん)NPO birthさんが、住民の方に参画してもらう取り組みをされているというお話が印象に残っています。我々も年間で20件ほどのイベントを開催しているのですが、基本的には我々のほうで企画を考えて、それをお客様に提供するという形なんですね。「参画」というよりは、「参加」してもらうような形です。年間で延べ10万人ぐらいの方が参加してくれていて集客は問題ないのですが、参加者や住民の方の困りごとを丁寧にヒアリングするようなプロセスはあまり踏んできていません。一方で、佐藤さんはそこを一番しっかりやられているなと感じました。イベントやプロジェクトの担当者は2、3年で代わっていきます。継続性という観点からも、住民の方に企画の段階から参画してもらい、一緒につくり上げていければ、担当者や組織が変わっていっても目的がブレずに済むのではないかと思いました。

諸井和也さん(以下、諸井さん)Dialogに臨む前は、公園と駅って本当に関連性があるんだろうかと考えていたんですが、学ぶことが予想以上にたくさんありました。イベントやプロジェクトが継続できるのは、地元の人たちの想いがあってのことなので、僕らのようになにか仕掛けをつくって参加してもらうという形だとなかなか難しいのかなと。参加者一人ひとりが発意することで、参加しているという意識がより強くなる。それが、継続に結びつくんだなと思いました。

クローズドの参画型とオープンな参加型のバランス ― JR中央ラインモールの課題意識①

酒井佐藤さんのお話を通して、いろんな人の発意を受け入れるための受け皿、つまりプラットフォームをつくることによって、新しい文化が育まれていくんだなと感じました。文化を育むためには十分な時間が必要で、やはり“継続性”がキーになりそうです。担当者が2、3年で代わってしまうために、なかなか属人的なアプローチができないというのが、今ラインモールさんが抱えている課題のひとつかと思います。それを踏まえて、参加型ではなく参画型のイベントつくっていくのは可能なのでしょうか?

水野さん参画型も大切ですが、やはり参加型イベントも欠かせないんですよね。それは、ある程度イベントの数を打っていかないと情報発信につながらないから。参画型ばかりに振り切ってしまうとそんなに数を打てなくなるので、バランスをいかにとっていくかが難しいのかなと思います。

有座邦雄さん(以下、有座さん)そう、バランスですよね。参画の輪を広げるためにも、参加のボリュームをつくらないといけない。それから、参画型イベントを増やすことの懸念のひとつは、参画した人だけのコミュニティがたくさんできて、それぞれが閉じられた世界になってしまうのではないかということです。そうではなく、参画型が広がって、参加型のイベントに昇華していくような形が一番美しいのかなって。閉じられた世界になるのはあまり是ではないので、そこをアップデートしてみんなを巻き込んでいくのが、駅のような、ニュートラルで公共空間に近い場所でのイベントの在り方だと思います。

酒井特徴、つまり“らしさ”を出していくことがブランディングでもありますが、それが強ければ強いほど閉じた世界になってしまうのが、非常に難しいところです。

有座さん両方あってもいいと思いますけどね。どんどん閉じていくコミュニティがある一方で、開き続けるコミュニティもある。いろんな場所が用意されていくような形がいいのかもしれません。

機能性を極めた駅に、情緒を加えていく ― JR中央ラインモールの課題意識②

酒井冒頭で、NPO birthさんの活動フィールドである公園と、ラインモールさんの駅は違うと思っていたという話があがりましたが、どのように異なると考えていましたか?

水野さん利用する動機がまったく違うんですよね。公園は必ずしもアクセスがいいわけではないこともあり、なにかしらの目的がないとわざわざ行かないんじゃないかなと。反対に、駅という場所はある程度必要性があって。

有座さん駅は機能性の極致みたいな場所ですよね。私たちJR東日本グループのビジネスモデルは、すべてそこに立脚しているんです。要は、人が乗車して、移動して、降車するというところに価値をつくっていくという。とはいえ、コロナで世の中の価値観が変わったので、その在り方を今一度考え直さなければいけないと思っています。機能性の極致だった駅に、いかに情緒的な要素を加えていくかというところが、おそらくすごく大事になってくるのではないでしょうか。駅を“乗り降りの場”と定義づけている限りは、人の絶対数が減るとビジネスの致命傷になってしまう。だからこれからは、“乗り降りの場”から“街の玄関”などに変換をしていかないといけないと考えています。私たちには、在宅勤務の広がりを覆すことも、移動する人を増やすこともできないので、そこをどうしていくかですね。

酒井鉄道のインフラ利用の起点から、移動を目的としない人も訪れる場所へ。今後は、そういう観点に可能性を見出していくということですね。

有座さん外から引っ越してきた人にとっても、駅はハードルが高くて立ち寄れない場所ではありません。駅が持つ、そういうニュートラルな感じっていうのは、うまく使っていくべきだと思っています。ただ、企業体としてはマネタイズしていかなければならないので、ニュートラルさに価値をつけていくところをうまくデザインしていければいいのかなと。

諸井さん僕の勤務先であるnonowa国立は国立駅にあるので、日々、コロナ禍で人が減っていくのを肌で感じていました。改札を通る人もすごく少なくて。今まで鉄道はあくまでも移動の手段でしたが、これからは電車に乗ること自体を楽しむとか、そういうふうに価値観がどんどん変わってくるのかなって。鉄道の起点となる駅も、商業施設を建てて商売をするというだけじゃなくて、みなさんが参加しやすい地域のイベントなどをもっと増やしていかなきゃいけないなと思っています。

酒井御社が対象にされている三鷹〜立川間は、どのような価値観を持つ方が多いのでしょうか?

水野さん中央線沿線は、ほかのエリアと比べていろんな価値観が同居している、面白いマーケットだと思います。ただ、それが難しさでもあって。我々が、それぞれの街の特色を駅ごとに規定して、それを推し進めていくことには限界があると感じています。だからこそ、住民の方に参画してもらって、地域課題を聞き出すことが大事ですよね。

岡村佳子さん(以下、岡村さん)私も、最近はいろいろと考えることがあって。「ののわプロジェクト」では、地域に暮らす人に対して、働き方を考えるきっかけを発信できたと思うんですね。共感して一緒になにかをしてくださったり、あるいは、直接関わってはいないんだけど、冊子やwebサイトを見てくれたりした人に、日々都心に働きに行くだけではない暮らしを提案できたのではないかと。
最近、このエリアの雰囲気に惹かれて、都心から移ってきたお店をよく見かけます。その方たちともうまくつながっていき、たとえばラインモールが持っている場を提供して、活動してもらうようなことができたらいいですね。リモートワークが広がって地域で過ごす時間が増えていることもあるので、そういうふうになっていけたら、自分が住んでいるエリアに目を向ける人が増え、街全体の購買も増えていくと思います。

酒井三鷹〜立川は、都心にも山間部にもアクセスしやすいという、新しいライフスタイルに対してポテンシャルの高いエリアなのかなと思います。それがコロナ禍でさらに拍車がかかって、そもそも郊外という概念も変わってきましたよね。どこまでが郊外なんだ、みたいな……出社が週に1度なら遠方に住むのもありなんじゃないかとか、これからは暮らしのステージの選択肢がますます広がっていきそうです。

有座さん最近、これから都心/郊外、首都圏/地方みたいな言葉はあんまり意味がなくなるじゃないかという話を聞いて、たしかにそうだなと思いました。「ずっと仙台で仕事をしているけど、実は会社は東京にある」みたいな話が、ここ2、3年でふつうになる可能性があると考えると、好きな場所に住んで自己実現することが大事になるんでしょうね。

酒井23区を中心としたヒエラルキーだけが経済活動圏の価値軸ではなくなったとき、いろんな街でいろんな可能性を見出すことができるようになりますよね。つまり、ほかとは違う価値軸によってレースを仕掛けることができる。そのときに、先ほど岡村さんがおっしゃっていた提案型というのは、十分あり得るのかなと思います。

間口の広い“街の玄関”へ ― 今後取り組んでいきたいこと

酒井住民の方たちとはいろいろな関わり方ができると思いますが、そこに対してラインモールさんはどういうふうにエンパワーしていきたいと考えますか?

有座さんそこってやっぱり、参画の入口をどうつくるかだと思っていて。すでに仲間関係ができている人たちを組織化するのはそんなに大変ではないですけど、全然知らない人同士だと工夫が必要です。そのきっかけはメディアに露出することかもしれないし、イベントかもしれませんが、適切な入口をつくって、次につなげていくことが大事だと思います。
そのうえで、間口の広さみたいなものは、やっぱり最後まで担保していくべき駅の機能です。先ほど「街の玄関」という言い方をしましたが、「こんなにいろんな玄関がありますよ」とトライアル的に見せ、好きな扉を選んで入ってもらう。そうすると、新しい人が入ってきて新陳代謝が進むし、エリアの強さにもつながる気がします。

酒井「ステーション」っていう言葉は、「コミュニティステーション」「モビリティステーション」のような使われ方をしていて、人々にとって安心で安全な場所の代名詞になっています。敷居がなく、誰もが受け入れてもらえる場所。そういう、非常にセーフティな場である駅を、移動以外の目的で足を運ぶ場所にしていくためにはどうしたらいいと思いますか?

有座さんひとつは、ステップに応じたパートナーをつくっていくことだと思います。我々の会社のフィロソフィもきちんと理解してくれたうえで、入口をつくってくれる人たち。それを広げていける人たち。そして、広がってできたコミュニティの特色をうまく伸ばせる人たち。全部同じ人たちでもできるのかもしれないですが、そんなふうに機能で分けて考えたほうがいいような気がします。

水野さん普段、さまざまな企画会社さんと組んでイベントを進めているのですが、イベントが終わったあともその人たちに継続的にお願いできるかというと、ちょっと違う気がしていて。ステップが変わると、別の機能が必要になるのかなと感じています。

駅を舞台に、小さなコミュニティをつくり出す ― 次回「Meetup」に向けて

酒井次段階の「Meetup」で、どういう方たちとどんな議論をするかについて話していきましょう。たとえば、現状では参加型イベントはできているけれど参画型は数が少ない、もしくは参画できるような仕組みがまだ構築できていないので、そういったところに関心がある方たちと議論することが考えられます。

有座さん参画型はぜひやってみたいですね。小商いでもいいから参画者を増やして、最終的にはその人たちでマルシェをやってもいいのかもしれないですし。そういう事例をたくさんつくっていければ、その間になんとなく面白いものが生まれていく可能性もあります。ただ、そのプロセスを全部、我々だけでうまく設計するのはやっぱり難しい。だから、そこを設計できる人たちなのか、あるいはできあがったコミュニティに対して価値を見出してくれる人たちか……。以前、知り合いが仙台の単身赴任者の会をつくっていて、それに対して経済を見出してくれる団体さんがいたんです。そんなふうに、コミュニティ支援の仕組みをつくってもいいのかもしれません。

酒井それも面白いですね。コミュニティの活動に対しても、「ラインモールが持っている場所を使っていいですよ」とか「情報発信をお手伝いします」とか、そういう仕組みがあるといいのかなと思います。

有座さん駅での催事も、「2日間好きなようにやってください。1カ月後のこのイベントにもぜひ参加してください」みたいにしてもいいのかもしれないですね。今もパン祭りやビアフェスなど、事業者のイベントは多くやっているんですが、それをもう少しローカライズするというか。コミュニティのプラットフォームづくりというところで言うと、「隣町の○○さんがつくった野菜」みたいなことがうまく表現されて、新しい人のつながりができ、次のイベントにつながっていくというストーリーを見せていけたら、進化していけるのではないでしょうか。

酒井たとえばこの会議室を、日替わりでいろんなコミュニティの活動場所として使ってもらうようなことは可能なのでしょうか?

有座さん形成されるコミュニティが健全でありさえすれば、もちろん大丈夫です。手作りのパンを売りたいと思っている人たちが、試験的にテイクアウトの店をやってみるとかもいいですよね。最初からはりきってやって行き詰まってしまうよりは、できることから始めてトライアンドエラーを重ねていくほうがいいと思います。

水野さん駅って、一般市民の方から見ると“いい場所”というか、催事などに出店するのもすごくハードルが高いと思われている場所なんですよね。NPO birthの佐藤さんが「公園のイベントに自分たちも関われるなんて思っていなかったという人がいた」とおっしゃっていて、それと一緒かなって。だから、敷居を低くすることはすごく大事だと思うんです。催事も、しっかり売って稼ぐ場というよりは、コミュニティをつくる場として機能するといいなと思います。

有座さん武蔵小金井の高架下にあるロボットプログラミング教室「プログラボ」も、生徒が幼稚園生〜中学生なので、学校のある時間帯は場所が空いてしまうんですよ。ずっと活用方法を考えてはいるんですが、いいアイデアがないのが現状です。

酒井駅というと、どうしても大きなインフラ、大きな仕組みというイメージがあるんですが、むしろ小さなコミュニティを有機的につないでいくことも十分できると思います。

有座さんコロナ禍の前は、人の数がすべてで、街同士の人の取り合いの時代だと思っていたので、新しく入ってくる人に対して駅がいかに魅力的なメディアであるかとかを考えていたんですけど、どうやらそうじゃないぞという気が最近していて。もちろんウェルカムじゃないといけないとは思いますし、人が出ていかないことも大事なんですが、それよりも人と人とのつながりを意図的につくり出していくことが大切なのかなと思います。そのきっかけをつくっていくためには、さまざまな立場、属性、年齢、職業の人と話をしないと、新しい発想が生まれてこない。それはたぶん、ビジネスの場だけではなく、生きていくうえでも。いろんな人たちと融合できる場所をつくっていくのが、生きていくためにも必要なことなんだろうなと思います。