多摩エリアで生きがいを軸とした新しい働き方をつくるには?

プログラムオーナーが「Dialog」「Monolog」を通して立てた問いに対しての“解”を探るミートアップ。地域で活動している4名の参加者がアイデアを発表し、プログラムオーナーとの協創を目指します。参加者同士のコラボレーションも予感させた今回。それぞれの実体験を交えた意見が、多摩エリアの新たな可能性を浮かび上がらせました。

member
  • 鈴木淳史(ONESEAT 代表取締役COO)
  • 出口みちたか(foo & bar DESIGN 代表)
  • 坂根千里(一橋大学 社会学部4年/学生団体たまこまち 元代表)
  • 赤坂健太(むらやま建設 企画戦略部 サステイナブルソリューション事業部 事業部長)
<コニカミノルタ>
  • 西川義信(デジタルワークプレイス事業本部 先行事業開発部 ワークプレイス開発グループ 係長)
  • 首藤孝夫(デジタルワークプレイス事業本部 先行事業開発部 ワークプレイス開発グループ グループリーダー)
  • 入谷 悠(ヒューマンエクスペリエンスデザインセンター チーフデザイナー)
  • 山田和弘(キンコーズ・ジャパン 新ブランド推進グループ マネージャー)
<ファシリテーション>
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

街をオフィス化する、テレワーカーと店のマッチングサービス

最初に発表を行ったのは、ONESEATの代表取締役COOを務めている鈴木淳史さん。多摩エリアを中心としたカフェの空席を予約できるアプリ「ONESEAT」の開発・運営を行っています。

このサービスは、テレワーカーの悩みと、昨今の飲食店の売上減少という、ふたつの課題を解決するために生まれたのだそう。

「テレワーカーは、自宅では集中できないからカフェで作業をしようと思って行ってみると、満席でカフェ難民になったり、席が空いていたとしても、作業をする環境に向いてなかったということがあるんじゃないかなと。僕もそういう経験があります。
飲食店の方はというと、コロナ禍で売上が減少していて。ウイルス対策をしていても積極的にお客さんを呼び込みづらいですし、これまで通りのスタイルでは経営が難しいと考えていることがありました。
僕たちは『ONESEAT』によって、それらの課題が解決できるんじゃないかなと考えています。テレワーカー側は席を予約することで必ず作業場所を確保できる。店舗側は、アイドルタイムとか、カウンター席のように埋まりづらい席、そういったところに集客ができます」

そんな鈴木さんがコニカミノルタと協創したいこととして提案したのは、働く場所を業務タスクによって使い分けられる、法人向けのテレワークサービス。働く場所は、飲食店をはじめとした街の商業空間です。集中して作業できるカフェ、ランチミーティングを歓迎しているレストラン、さらにはリフレッシュスペースとして、ビジネスホテルや銭湯もある。そんなふうに、目的別に選べる場所を街に点在させることで“街のオフィス化”ができたら、と鈴木さんは話します。

「ONESEATをプラットフォームとして、店舗にはおすすめの利用目的の情報を登録してもらい、会員である法人には自社の社員さんに目的に合わせて使ってもらう。登録店舗が増えていくと、たとえば中央線沿線だったら『今日は国分寺で作業しよう』『明日のミーティングは三鷹で』というように、街をオフィスとして使うことができます。新しい街や場所、そこで作業している人たちとの出会いも生まれるのではないでしょうか」

鈴木さんの提案に対して「その場所が持っている機能だけじゃなくて、おすすめの使い方がきちんと提示されているとありがたいですよね」とコニカミノルタの西川さん。そのうえで、こう続けました。

「法人に契約してもらい、使ってもらう仕組みをうまく作れたらいいですよね。そこはうちの強みとして、一緒に進められるところだと思います。今のONESEATは個人向けのサービスで、従量課金制、つまり使ったぶんだけお金を払うようになっていますが、法人の場合は費用が固定で見えるサブスクもありかもしれません。コニカミノルタが展開しているキンコーズのプリンティングサービスと組み合わせたりするのもよさそうです」

その後も、街のワーカーのニーズを吸い上げることで店舗開拓をしたい人にも役立つ情報が得られること、コニカミノルタのサービスを利用してネットワークセキュリティの安全性を担保できそうなことなど、話題はどんどん広がっていきました。

“ウェーイ”が詰まったふるさとをつくるために

続いては、会社員として働く傍ら、小平市で多数の地域活動に取り組んでいる出口みちたかさんです。こだいら観光まちづくり協会のアグレッシブ個人会員、KODAIRA FURUSATO PROJECTの運営事務局であるfoo&bar DESIGNの代表、地域イベントの仕掛け人など、いくつもの肩書きを持つ出口さん。「今日は提案というよりも、僕の妄想を話したいと思っています」と前置きし、発表が始まりました。

これまで、暮らしに占める仕事の割合が高かったという出口さんは、「生きがい」と「働く」をつなぐようなプラットフォームがつくれたらと考えています。

「ひとつの場所に多層的な機能があって、それが地域に分散配置されていたらいいなと。たとえば、学生や市民活動をしている人、企業の人とかいろんな立場の方々が集まってコラボレーションできたり、街への愛着を生んだり、生きがいを感じられるような機能。そういう機能が重なり合うような拠点があったらいいなと思うんです。キンコーズさんのコワーキングスペース『ツクル』を派生させて、仮に『ツナゲル』と名づけました。
このツナゲルを、乗り換え駅といった人がクロスする場所や、国分寺などの研究施設が多く集まる場所、多摩エリアの大学などにも置いて、お互いが活動を共有し合い、循環できるようにしたいと考えています」

さらに続々とアイデアを語っていく出口さん。
その“妄想”のなかには、赤坂さんが勤務する建設会社でシャッター商店街の店舗をオフィスにリノベーションしたり、ONESEATのシステムを利用してレストランでも働けるようにしたりと、ミートアップの参加者も登場しました。
そして、数々のアイデアの背景として、KODAIRA FURUSATO PROJECTをつくりあげるなかで考えた、ふるさとづくりについて語ってくれました。

「ふるさとっていうのは、記憶に刻まれる人やモノ、コト、場所、そういうものの集合体。小平でいうと、豊かな自然のなかで遊んだりとか、多世代が集まって乾杯したりとか、大人も子どもも一緒になって歌って踊るみたいなこと……つまり“ウェーイ”状態です(笑)。ふるさとづくりは、そんなふうに、暮らしのフィールドにDIYで共に悦ぶ“共悦”をつくり出すことだと思います」

さらに、これまで携わってきたたくさんの地域活動や、地域の人との関わりを紹介してくれた出口さんに、「すでに出口さんが人間プラットフォームですね(笑)」と多摩未来協創会議ディレクターの酒井。「ツナゲルについてはどうですか?」と西川さんに意見を求めます。

問いかけに対し、西川さんは「拠点同士をなにでつなげるかというのが、けっこう重要だなと思うんです」と話します。コニカミノルタのグループ企業であるキンコーズ・ジャパンの山田さんからも、こんな意見があがりました。

「ひとつの企業や組織で全部の拠点を見るのは難しい。多摩エリアには地域に根ざす大学や企業がたくさんあるので、そういうところが各拠点をバックアップするのがいいかもしれません。そのうえで、ひとつのゆるいくくりみたいな共通項を持たせ、各拠点のマネージャー同士が連携するという形です」

山田さんの意見に「たしかにそうですね」と同意した西川さん。「同時に、出口さんみたいなコミュニティマネージャーが重要なのかなと思います。理念を持っている人がひとりいるだけでその場所は変わっていくし、そういう人たちが増えて、ツナゲルでつながっていければ実現できそうな気がしますね」と続けました。

セミクローズドなアプリで“働く”と“遊ぶ”が混ざり合う

続いての発表者、坂根千里さんは、多摩未来協創会議のミートアップ参加者で初の現役大学生。一橋大学に通いながら、夜は国立のスナックでアルバイトをし、学生団体の元代表として国立で築52年のアパートを活用したゲストハウスの運営もしています。

働き方や生きがいを考えるにあたって、まず自分の1日のスケジュールを振り返ってみると、「働くも遊ぶも、全部が混ざり合っていることに気づいた」と言います。

「集中する場所や発散する場所が、ひとつのオフィスのなかにあるんじゃなくて、街にちらばっているといいんじゃないかなと思っているんです。今回提案するのは、それをまず国立でやってみるためのアプリです。
まず“働く”に関しては、集中モードとか、発散したいとか、『今の気分』を選んでタップすると、それに合ったおすすめのスポットが表示されるといいなって」

坂根さんは、「そのアプリを地域のSNSと紐付けることができたら」と続けます。

「たとえば“誰々さんがチェックインしました”みたいなアナウンスが表示されるイメージです。ユーザーは国立に住んでいる人や国立の会社に勤めている人、もしくはユーザーさんに招待された人だけという、半分クローズドな形。なぜかというと、“遊ぶ”という機能も持たせたくて。ユーザー限定のイベントなどを通して、働く場を共有している人が遊び仲間にもなっていくんです」

発表を聞いた西川さんは、「いい意味で難しいなと思うのが、オープンかクローズドかというところ」と言います。

「場所のあり方には、オープンとクローズド、その間にセミオープンとセミクローズドがあるんですよ。坂根さんは、その点がいいところをついてるなと。というのも、あの人がいるからここに行こうみたいなことって、めちゃくちゃあると思うんですよね。そこがいい感じになると、より活性化するなと思いました」

また、坂根さんからは「旅行という視点から見ると、これからは観光ではなく、試しにその土地に暮らしてみるような形が求められていくはず。だから、国立に滞在している人が一時的にこのアプリを使えるようにして、国立での暮らしを体験できることにもなったらいいですよね」という提案も。これに対して、コニカミノルタの入谷さんから意見が出されました。

「坂根さんが運営しているゲストハウスも“ちょっと住んでみたい”を試せるっていうのがいいですよね。求める住居のあり方が変わってきているなかで、今までは都心へのアクセスで選んでいたけれど、多摩エリアで家を買いたいというふうにチェンジしようとしている人にもすごくいい。坂根さんの考えるアプリも、地域の人に対してソリューションを提供するだけでなく、よそから街に引き入れる手段にもなり得ますよね。ゲストハウスも含めて、うまくミックスできたらいいなと感じました」

空き家をリノベーションした、面でつながるコワーキングスペース

最後は、立川のむらやま建設で経営企画を中心に担当している赤坂健太さんが発表しました。
自然の素材を使ったぬくもりある空間づくりをしているむらやま建設では、地域に開いた事業活動に取り組んでいるそう。最近では、住まいのデザインを通してまちづくりを推進するサービス「Itteki」もスタートしました。

約1年前に飛び込んだ建設業界での日々は苦労も多い反面、「ものすごく幸福度高く働けています」と赤坂さん。なぜそう感じるのかを自己分析したところ、寛容度の高い働き方ができているからではないかと考えました。そして、働き方の寛容度と企業からの生きがいの提供度は表裏一体なのでは?と感じたそうです。

そして「ここから先の話は、ありがたいことにみなさんにほぼ言ってもらってしまったんですが(笑)」と協創アイデアの発表が始まりました。

「“work×◯◯”という掛け合わせをつくっていく、それを会社や地域が提供してあげることとが、住民の生きがいをしっかり生み出していくことにつながるんじゃないかなと思っています。それで今回は、多摩エリアの空き家を“コワーキングスペース×◯◯”というふうにして、それらを結びつけていくというのはどうかなと。街にある空き家をコワーキングスペースに作り替えて、それらを面でつないでいくイメージです。
特徴としては、“コワーキングスペース×ゲストハウス”のように空間的な個性を持っていたり、“集中コワーキングスペース”や“コミュニケーションコワーキングスペース”のように目的別になっている。地域活動をしたいプレイヤーをアサインするなどして、ソフト面も充実させられるといいですね」

むらやま建設では、もともと倉庫だった自社オフィスの1階部分をリノベーションし、地域に対して開けたコミュニティスペースとして運用する計画が持ち上がっています。赤坂さんは、このスペースについても「どんな使い方ができるかヒアリングをしたい」と話しました。

発表を聞き終えた西川さんは、「リモートワークが広がったことで、働いている人たちが地域にいるようにはなったけど、孤立してしまっているという状況がある」と言い、こう続けます。

「だから、これまでに全然なかった、コミュニティスペースにふつうのサラリーマンが入っていけるような仕組みがあったらいいなと思います。空き家らしさの活用プラス、新しい層を取り込めるといいですよね」

それに対して、「オフィス1階のスペースは、ゆっくりゆっくりDIYを進めている状態なので、トライアンドエラーで柔軟にやっていけたらと思っています」と赤坂さん。
コニカミノルタの首藤さんは、「拠点をまたいだ、ゆるいつながりが設定された新しいパッケージがつくれないかな、とも思います」と語りました。

「古い家を二世帯住宅にリノベーションするようなことはいっぱいあったけど、そうじゃなくて、もともと使っていた人の空間は残しつつ、外からの人を受け入れるスペースを設けるっていうつくり。家の中に複数の目的を共存させられるような設計が考えられたらおもしろいですね」

その後も、議論は予定の時間を超えて盛り上がり、ミートアップ後の交流会でも盛んに意見が交わされていました。

発表者それぞれの実体験を交えて練られたアイデアの数々は、社会実装や事業化を目指して、今後も検証が進められていきます。