多摩エリアとつながり続けるためのクラウドファンディング

MotionGalleryが、日立製作所 研究開発グループとの「Dialog」を振り返りながら「地域×企業」の問いを抽出するための社内会議を行いました。地域の課題から見えてきた、新しいクラウドファンディングの役割とは? MotionGalleryの2名と多摩未来協創会議ディレクターの酒井博基が議論し、2021年2月13日(土)のミートアップ会議に向けたテーマを設定します。

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  • 出川 光(チーフディレクター)
  • 梅本智子(キュレーター)
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

自助だからこそ理想系を貫ける ― 日立製作所 研究開発グループとの「Dialog」を振り返って

酒井博基(以下「酒井」)出川さんは前回のDialogで印象に残っていることはありますか?

出川 光さん(以下「出川さん」)Dialogで、Fare Fundのように街を訪れた人々からほんの少しのお金を等しく集めていく“エクストラ税金”のようなものと、瞬発力はあるけれどずっと続くわけではないクラウドファンディングでの資金調達の違いについての話が出ましたよね。公助が税金だとしたら、Fare Fundで徴収する“エクストラ税金”は共助、そしてクラウドファンディングは自助に近い。その間のグラーデーションをつくるものとして、なにが考えられるかというのは、もう少し議論の余地があると思います。

梅本は、MotionGalleryとゲストハウス情報マガジン「FootPrints」の共同企画である「ローカルクリエイター交流会 -Guesthouse Caravan-」を担当しています。これは日本各地のゲストハウスを旅しながら開催するイベントなんですが、そんなふうに、長期スパンのプロジェクトに携わっている梅本の体験を参考にしつつ、クラウドファンディングを1回の“打ち上げ花火”で終わらずに続いていくようにするための方法を探れたらと思いました。

酒井たしかに、単発のプロジェクトが長期のプログラムやムーブメントに変化し、やがてカルチャーになっていくようなことは、今後地域でも必要とされていくと思います。それから、公助だけでは限界があるから、個人や企業が自助に乗り出さなきゃいけないという話も出ましたよね。価値観が多様化するなかで、インフラなどの公助が市民みんなのニーズに応えるためには、結局のところ市民自身が公助をDIYしていかなければならないという。

梅本智子さん(以下「梅本さん」)今のお話を聞いていて、私が運営スタッフを務めている、和歌山のクリエイターが集うマーケットイベント「Arcade」と共通するところがあるなと思いました。私自身の出身地でもある和歌山って、多くの人が高校を卒業すると県外に出てしまうんです。でも、実は県内にはかっこいい大人がたくさんいる。Arcadeはそのことをみんなに知ってもらいたいという思いもあって続けているプロジェクトで、費用の大部分を自費や協賛金でまかなってるんですね。それは自治体、つまり公助に頼らず、自分たちの理想とする形をつきつめるためなんだろうと思います。

どうして地域にその活動が必要なのかをきっちり伝えていくことはとても大切です。地域におけるクラウドファンディングでは、長く活動を続けていく姿を見せることが多く、単発のクラウドファンディングとは根っこの部分が少し違うのかなと思います。

酒井長く続けていくからこそ、自分の意思を純度高く反映させていけるんですね。Arcadeはマーケット自体をやりたいわけではなく、地域との関わり方のいち表現としてマーケットの形をとっているんだなと感じました。

離れても地域とつながっていられるために ― 多摩エリアの課題

酒井多摩エリアにも和歌山と似たような課題があって、地元の人や、大学に入って地方から多摩エリアに越してきた人たちは、大学を卒業したら23区の企業に就職して、そっちに出て行ってしまうんです。そのあと結婚や出産を機に戻ってくる。要するに20代半ばから30代前半の若い世代が少ないんですよね。

出川さん多摩エリアは23区からそんなに遠いわけではないのに、ここにいては勝負できない、快適に働けないと感じてしまうところに地域課題が眠っているような気がします。

酒井経済を軸に考えると、東京の中心は23区になると思うんですが、そうではない価値観、たとえば生きがいを軸にして考えると、ひょっとすると多摩エリアのほうが可能性があったりするかもしれない。今は、一律的な価値観から多様な価値観へとどんどん変化しているので、“中心”も変わっていくはずです。そうなると、23区に移っても多摩エリアとのつながりを残したいと考える人が増えていくのではないでしょうか。

梅本さん以前、京都の出町柳にある、廃館予定だった映画館を移転オープンするプロジェクトを担当したとき、京都以外にもいろんな地域の人から支援があったんです。学生時代に出町柳に住んでいて、あの映画館は街にあってほしい場所だと思ったし、通うことはできなくても応援したいという人がたくさんいらっしゃったと聞きました。そういうふうに、街と関わり続けたい人の受け皿になるようなプロジェクトがたくさんできたら、関わり方が多様になり、いろんな人が交差するようになって面白そうですよね。

学生自身が街のロールモデルになる ― 次回「Meetup」に向けて①

梅本さん街との接点を持とうとする人たちが和歌山に増えたのは“この人みたいにかっこいい大人になりたい”という気持ちが生まれ始めたからだと思います。実際に「だんだん和歌山を好きになってきた」という学生の話や、大学を卒業した人が他県での修行を経て和歌山で店を開いたという話も聞きました。だから、地域のキーマンの姿を見せるのはすごく重要だと思っていて。「この人がいるから面白そうだな」みたいなことって、すごく街の吸引力になりますよね。

酒井キーマンの姿が、地域で活動することのロールモデルになるイメージですね。今回のTama Mirai Programは、学生さん自身にロールモデルをつくってもらうという方向性もいいかもしれません。その資金調達をクラウドファンディングでやってみるとか。

出川さんそのとき、人の動きをデザインすることが大事ですよね。たとえば、コワーキングスペースの立ち上げとクラウドファンディングって相性がいいんです。本来は、いざスペースをつくっても、そこに来る人たちをコミュニティ化するのがすごく難しいのですが、クラウドファンディングを使って立ち上げれば、お金を払ってまでそのスペースのファンでいてくれる人を最初から担保することができるから。そんなふうに、まず“箱”を用意することが、人が集まる理由になるんです。

酒井うちの会社(D-LAND)のスペースは自由に使えますよ。

出川さんスペースがあるのであれば、そこで学生が将来やりたいことを試験的にやってみるというのもありですね。その資金をクラウドファンディングで募るかたちです。

自分ごととして語れるプロジェクトを ― 次回「Meetup」に向けて②

酒井いろんなプロジェクトが立ち上がって、それぞれにクラウドファンディングのファンがついて、さらにファンたちがクロスし始めると面白いことになりそうです。梅本さんは、そういう形のプロジェクトを担当されたことはありますか?

梅本さん学生さんがやるのであれば期間限定になるかもしれませんが、これまで携わったなかでは、お店を開くためのプロジェクトがイメージに近いと思います。

学生さんにとってすごくいいのは、もし将来その人がお店をやりたくなったときに強みになることです。自分がクラウドファンティングでどういうふうに活動してきたかを見せられるし、活動してきたこと自体が信頼につながる。しかもファンがいる状態で始められるので、大きな意義を持ちますよね。

酒井学生が実際にクラウドファンティングにチャレンジするとしたら、おふたりがレクチャーやサポートをすることも可能なのでしょうか?

梅本さんそうですね。通常はクラウドファンディングでやりたいことがすでに決まっている状態でご相談をいただくので、プロジェクトをいかに広く知ってもらうかというアドバイスをしているのですが、その前の準備段階でお会いできると考えたら、実際にクラウドファンディングを始める前にどんな活動をしたらいいのか、各地の人たちがどうやってきたのかを参考にお話しできるかもしれません。

出川さんどんなプロジェクトをやったらいいかわからないという人は、地域の課題と自分のやりたいことが重なる部分を探るのがいいのではないでしょうか。そうしないとモチベーションが上がらないのと、クラウドファンディングのプロジェクトは自分ごととして表現できないと成功しづらいんです。そこからどういうプロジェクトができるのかを考えてもらいつつ、地域との関わり方などを梅本さんにレクチャーしてもらうのもいいなと思いました。

梅本さん本当にその通りですね。どうしてやるのか、どうしてそこなのか。それを語れるか語れないかで、結果は大きく変わってくると思います。