地域と自分をつなぐ居場所をつくるには?

プログラムオーナーが「Dialog」「Monolog」を通して立てた問いに対しての“解”を探るミートアップ。6名の学生が参加し、MotionGalleryで実際にクラウドファンディングを行うことも視野に入れながら「地域と自分をつなぐ居場所をつくる」ためのアイデアを発表しました。初のオンライン開催となった今回もさまざまな意見が飛び交い、予定時間に収まらないほどの盛り上がりを見せました。

member
  • 山田 柊(一橋大学 社会学部 3年)
  • 黒瀬光彦(武蔵野美術大学 工業工芸デザイン学科 3年)
  • 井上澪夏(多摩大学 経営情報学部 2年)
  • 矢野義武(一橋大学 社会学部 4年)
  • 杉井龍一(中央大学 商学部 3年)
  • 坂根千里(一橋大学 社会学部 3年)
<MotionGallery>
  • 出川 光(チーフディレクター)
  • 梅本智子(キュレーター)
<ファシリテーション>
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

街の子どもたちと一緒につくる「子ども食堂」

トップバッターを務めたのは、一橋大学 社会学部の山田 柊さんです。
近年さけばれている子どもの“相対的貧困”。それを食い止める鍵のひとつは、地域とのつながりをつくることです。山田さんは、そのための一助になる子ども食堂に着目しました。

「子ども食堂が持つ、利用するのが恥ずかしいという課題を解決するために“イケてる食堂”をつくりたい。最大の特徴は、子どもたちと一緒に運営することです」

この新しいスタイルによって、子どもたちにはこんなメリットがあるといいます。

また大人にとっても、利用するだけで支援につながる、子どもたちとのつながりができる、マインドの近い大人の客同士のつながりもできるなどのメリットがあります。

最後に課題として1回の実施に時間がかかることを挙げ、「食事そのものの支援というより、地域とのつながりを提供するという施策。また、対象の子どもたちとの関係性を築く方法ももう少し考えたいと思っています」と語り、発表を終えました。

これに対し、MotionGalleryの出川 光さんからは「子どもの貧困という重たい課題を背負う場合、クラウドファンディングの支援者からは継続性が厳しい目で見られる」、同じく梅本智子さんからは「センシティブなテーマはじっくりやったほうがいい」とそれぞれ意見が。たとえば地域の学校と連携して、子どもたちにヒアリングする場をつくるところからリサーチを深めていくと、プロジェクトの持つ意義が強固かつ具体的になっていくかもしれないというアドバイスをもらいました。

休日だけ“駄菓子屋の兄ちゃん”になる

武蔵野美術大学 工業工芸デザイン学科の黒瀬光彦さんが語ったのは、“休日だけ駄菓子屋の兄ちゃん”をするというアイデア。子育てがしやすい、ファミリー層が暮らしやすいという多摩エリアの魅力からヒントを得て、「自分が子ども時代に楽しかった駄菓子屋を発展されられないかと考えました」と黒瀬さんは話します。

「駄菓子屋の現状には、高い利益が望めないことや、スーパーやコンビニでも駄菓子が手に入るなどの課題があります。それに対して魅力ももちろんあって、大人には懐かしい、子どもには新鮮。世代を越えて交流できる場にもなります。新規参入という視点で考えると、開業に特別な資格が必要ないところもポイントです。僕だけではなく、店主をやりたい人をほかにも募ってひとつの店をシェアしたい。店に立つ期間が選べて予約ができるアプリもあったらいいですね」

フィードバックとして、「黒瀬さん自身が、駄菓子のどういうところに魅力を感じているかがもっと明確になれば、アイデアが広がっていきそう」と出川さん。梅本さんからは、「トライアルとして、移動屋台のような形式で、期間限定でやってみるのもいいと思います。まずは小さくやってみることも大事」と意見が挙がり、参考になりそうな過去のクラウドファンディングの事例などを共有してもらいました。

好きなことと多摩エリアの課題をつなぐ

続いては、多摩大学 経営情報学部の井上澪夏さん。多摩エリアが持つ課題を逆手にとった「学生同士が繋がり合う多摩の魅力プロジェクト〜おもてなし発信委員会〜」について発表しました。

このプロジェクトは、空き家を利用した大学生の交流会、坂道が多いという地形を生かした大学生主体のウォーキングイベントなどを、年間を通して開催するというもの。さらに「空き家をリフォームしてレトロ感あふれる喫茶店をつくりたいです。気分転換にカラオケもできたりする、コミュニティスペースになれば」と井上さんは語ります。

発表に対して、ファシリテーションを務めた酒井博基から挙がったのは「観光や空き家、学生団体、イベントなど、やりたいことがたくさん混ざっている状態かと思いますが、井上さんが一番やりたいことはどれですか?」という質問。出川さん、梅本さんも交えて対話を続けるうち、井上さんのなかで「レトロ喫茶でカラオケをすること」という答えが見えてきたようです。

そして、出川さんからは「好きなことが中心にあると、クラウドファンディングはうまくいきます。カラオケのなかでも歌謡曲が好きとか、さらに絞っていくとイメージが広がるかも」、梅本さんからは「お話を伺っていて、井上さんがやりたいのは、コミュニケーションができる場所作りなのかなと思いました。どんな人に集まってほしいかを明確にすると、より見えてくるものがあるかもしれません」とメッセージをいただきました。

“エモさ”が鍵? 小平ブルーベリーワインのリブランディング

一橋大学 社会学部の矢野義武さんが「上京して小平に住んで5年、ずっとやりたいと思っていたこと」として挙げたテーマは、ブルーベリーワインです。
小平市はブルーベリーの栽培発祥の地。矢野さんは特産品のひとつであるブルーベリーワインを愛飲しているそうです。

「味は確かですし、お酒が飲めない人にも飲みやすいと言ってもらえる。ただ、現状では市民でも知らない人が多いほどなので、もっと広めたいんです。そこで今回は、デジタルでの広告を出して認知度のアップを図ったり、新しい商品を開発することを考えました」

矢野さんが「僕の大学生活とともにあったお酒」と言うと、ほかの参加者が「エモい!」と反応する場面も。矢野さんはほかにも、クリエイティブ面で武蔵野美術大学の学生とコラボレーションするなどのアイデアを語り、「最終的には、ブルーベリーワインをきっかけにして小平に来てもらいたい。その受け皿として、ブルーベリー畑やワイナリーでの栽培・製造体験の仕組みをつくりたいです」と続けました。

出川さんからのフィードバックは「腕の見せどころはブルーベリー愛をどこまで出せるかと、マーケターとして関わるならどれくらいブランディングで“トガる”ことができるか」というものです。

「ヒントになりそうだと思ったのは、参加者から挙がった『エモい』。エモいという感覚は、大人が言語化してマーケティングやブランディングに落とし込もうとしてもなかなかできません。でも、若い矢野さんが熱を持って“エモく”ブルーベリーワインを語ることができたら、うまくいきそうな気がするんです」

続いて酒井からも、「ワイン業界はハードルが高い。だからこそ、ひょっとすると“エモさ”が突破口になるかもしれません」と言葉がかけられました。

ポテトチップスで檜原村に貢献

続いて中央大学 商学部の杉井龍一さんが発表を行いました。
タイトルは「檜原村の農業が変わるポテトチップス 買いたい人と売りたい人をつなぐ」です。大学と村の連携プロジェクトや、雑誌制作のアルバイトで村を取材したことなどを通して、檜原村とのつながりを持つ杉井さん。それらの活動で本当に村の活性化に貢献できたのだろうか?と感じたことをきっかけに、今回のアイデアが生まれました。

「村にはお土産の種類が少ないなどの課題がある一方で、村民が地域活性化の必要性を感じていないような雰囲気もある。外からやろうとしてもなかなか難しいので、今回考えたのが、買うことで過疎地域を救うことができるお土産です。檜原村の農家さんから通常の倍の金額でじゃがいもを仕入れ、ポテトチップスをつくります。それによって、観光客にとってはお土産の選択肢が増え、買うことで地域に役立つというメリットが生まれる。仕入れ値を倍にすることで、農家さんの生計にも貢献できると思います」

想定売上や広告費などから、具体的な予算も提示した杉井さん。梅本さんからは「モノ系なので、商品のよさもしっかり訴えないといけないですよね。たとえば、知名度の高い人気商品ではなく檜原村のポテトチップスを選ぶポイントを3つくらい挙げることから始めてみると、考えやすいかもしれません」とフィードバックをもらいました。続いて出川さんは、次のようにコメントしました。

「実際にクラウドファンディングをやると考えると、もうひと味ほしいところ。最近、檜原村はワーケーションで注目されているので、滞在中にじゃがいもをたくさん消費してもらうワーケーションプランを考えるなど、村を巻き込んでじゃがいもを消費してもらう方法をもっと考えていけたらいいのかなと思います。ちょっと珍しくておしゃれなポテトチップスをつくるところからもう一歩踏み込むと、この村じゃないとできないことが見えてきそうです」

女性が力をもらえる、新しい形のスナック

最後を飾ったのは一橋大学 社会学部の坂根千里さんです。「世代を越えた人間関係を作れる女子のためのサードプレイス、スナック夜明け前」と題したプロジェクトの構想を語りました。

自身もアルバイトをしているというスナックについて、「ひと言でいうと『働く男性が労働市場からしばし解放される、近所の社交場』」と坂根さん。これをアップデートし、若い女性のための新しい形のスナックをつくりたいのだそうです。

坂根さんはさらに続けます。

「きっかけは、ふたりの女性との出会いです。ひとりは、奄美大島で出会ったちかちゃん。どんなふうに生きていこうか迷っていた時期に出会い、その自由な生き方に衝撃を受けました。その後、住んでいる国立に戻ってきたときにスナックで出会ったのがMさんです。Mさんは子育てしながら自由に仕事をしていて、『こんな素敵な人が近くの場所にもいるんだ』と感じました。そうやって私は地域や、スナックのコミュニティに救われてきたんです」

その後も、ほかの事例も参照しながら具体的なプランを語った坂根さん。
発表を受け、出川さんは「すぐにでも(クラウドファンディングを)始められると思います。ただ、タイトルの“女子のための”という部分が、説明が少ないと誤解を与えてしまう可能性もあるので、女性が接客することで生まれる価値などについて、さらにしっかり言語化しておくといいと思います」と話しました。
梅本さんは、坂根さんからの「わたしがカウンターに立つと年上の女性が来てくれないのではないか」という相談に「“日替わりママ”ではありませんが、その年代の方たちが会いたいと思ってくれそうな人をゲストに呼ぶのもいいかもしれません」と答えました。

こうして6名の発表が終了。梅本さんは総評として「根本に、自分のやりたいことや実体験がちゃんとあるアイデアが多かったと感じます。それは、今後実際にクラウドファンディングをやる、やらないにかかわらず大事なこと。みなさんの、クオリティの高い多彩なアイデアが聞けて楽しかったです」と語り、出川さんもこう続けました。

「プロジェクトのゴールを見つけるのって、大人でもすごく難しいんです。実際、アセットだけもってクラウドファンディングの相談に来る人がすごく多い。だからみなさんは、ゴールまですでにたどり着けている時点ですごくいいスタートラインに立っていらっしゃると思います。すぐにでもクラウドファンディングができそうなアイデアばかりなので、いつでも相談してください」