行政と民間が一緒につくりあげる“半官半民”のスペース

東村山市が、KPMGコンサルティングとの「Dialog」を振り返りながら「地域×行政」の問いを抽出するための会議を行いました。これからの官民連携の形とは? 東村山市職員の3名と多摩未来協創会議ディレクターの酒井博基が議論し、2021年3月19日(金)のミートアップ会議に向けたテーマを設定します。

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  • 杉山健一(経営政策部資産マネジメント課 課長)
  • 竹崎佑樹(経営政策部資産マネジメント課 主査)
  • 橋本裕子(経営政策部資産マネジメント課)
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

内部の足並みを揃えていくこと ― KPMGコンサルティングとの「Dialog」を振り返って

酒井博基(以下「酒井」)杉山さん、Dialogで印象に残っていることはなんですか?

杉山健一さん(以下「杉山さん」)官民連携の根本的なところを山中さんが整理してくれた気がします。官と民の役割を分け、それぞれでやっていくのではなく、境界を曖昧にしながらお互いの得意なところを分かち合っていくことで社会がよくなっていく。さらにそのなかで、実際に地域でものごとを回していくプレイヤーが重要になっていくだろうと。それを聞いて、今後も民間の方たちと一緒に取り組んでいく土壌をどんどんつくっていきたいと思いました。

酒井KPMGコンサルティングと東村山市が進めている官民連携のお話のなかで、役所内の足並みを揃えていかなければいけないという指摘が杉山さんからありましたが、竹崎さんと橋本さんはどのように感じていますか?

竹崎佑樹さん(以下「竹崎さん」)民間事業者提案制度で採択した27件の提案は、どれも市の発展につながっていくであろう内容です。それらを進めるなかで感じたのは、杉山からも挙がった“内部職員の足並みをどう揃えていくか”ということ。すぐに実行に移るケースもある一方で、通常業務に支障が出る懸念や新たに提示される課題へのとまどいが見られることもあります。そのとき私たち資産マネジメント課と各部署がいかに歩調を合わせられるかを、今後も考えていきたいですね。

橋本裕子さん(以下「橋本さん」)私も、各部署に話を持っていったときに同じような経験があります。ただ、新たに持ち込まれた案件に対して逡巡する気持ちももちろん理解できます。行動することが第一、まずはやってみようと思ってもどかしく感じることも多かったのですが、なぜすぐに行動を起こせないのか、起こさないのかを考えるようになりました。

酒井課題に対する共通認識を高めることが必要なのかもしれませんね。今は変化の時代であり、10年、20年後も存続していくために今から手を打たないといけない状況。でも実際は、直近の課題に着手しがちなのは、行政も民間も同じだと思います。

「総合計画」や「実行プログラム」にヒントが詰まっている ― 東村山市の官民連携

酒井民間からの提案を受けるなかで、学ぶことや刺激を受ける部分はありますか?

橋本さんわたしは以前民間にいたので、民間の方と対話をすることに抵抗はありませんが、ほかの部署に持っていったときには「営業でしょ」とあまり興味を持ってもらえないことが多くあります。というのも、民間は利益を得るのが目的で、自分たちはそうではないという前提があるからです。

実際に話してみると、もちろん民間ですから存続のために利益は取るのですが、本気で市のためを思って提案をしてくれる方たちがすごくたくさんいて。それって、この制度がなかったら気づけない部分だと思うんです。官と民というと対立構造をイメージしがちですが、実は目指しているところは一緒で、混じり合うことができる民間さんが多くいることを学びました。

酒井行政は税金で運営されているので、“みんなにとって平等にいい”最大公約数的な行政サービスを実施していると思います。一方で民間企業は営利団体ですが、自分たちの持っているソリューションを多くの人に提供して公益性を上げていき、長い目で見るとそれが自分たちの利益にもつながるという視点をもつ企業も増えてきましたよね。公益性を持った視点であれば、お互いの目線が揃ってくるんじゃないかという橋本さんのご意見は、なるほどなと思いました。

杉山さん本当にその通りですよね。東村山市の官民連携の基本方針は「三方よし」で、公共にとっていいことをするのはもちろん、民間にとってもちゃんとビジネスとして成り立つことを目指しています。でも現状では、行政は公共的な立場でいい公共事業をする、民間は営利事業をやっているという単純な構図で捉えられがち。民間企業がCSRやCSVを通して社会的な地位を確立しつつ、その地位があるからビジネスが継続していけるという状況に立っていることも含めて、お互いのことをよく知ることから始めることがすごく大事だと思います。

酒井お互いの役割をちゃんと理解し合わないと、いい提案であってもなかなか実現に至らないのかなと。たとえば民間事業者提案制度でいうと、行政が実現に向けて動きやすいのはどのような提案ですか?

杉山さん市が掲げている方向性に合致しているものは進めやすいと思います。具体的には、「総合計画」や「行財政改革大綱」の内容にリンクするもの。特に、向こう3年間でこういうことをやりますよという行財政改革の「実行プログラム」には、ヒントがかなり盛り込まれていると思います。

いただいた提案を見ていると、単一の課題解決だけじゃないなと感じます。役所は縦割りなので、福祉だったら福祉、環境だったら環境と施策ごとに計画を立てていくのですが、民間はそうではないので、横串を刺せばいくつかの課題が解決できそうだという提案がほとんどでした。ですから、提案いただいたうえで、さらにどういう見せ方にしていくかを僕たちと一緒に考えていきます。ぜひアイデアの取っ掛かりとして、実行プログラムなどを活用していただければと思います。

民間との豊かなつながりが生まれる場所を ― 次回「Meetup」に向けて

酒井ミートアップではいろんな提案が集まる場にしたいなと思っているんですが、どんなテーマを設定しましょうか。たとえば、直近で取り組みたい分野はありますか?

杉山さん現状の事務をDX(デジタルトランスフォーメーション)のようなことで改善する提案はすごく受け入れられやすいと思います。

竹崎さん東村山市はまだまだデジタル化の余地がありますね。テレワークが進んでいるなかで、ハンコを押すためだけに出勤するような話もよく聞くので、文書決裁のデジタル化はぜひ進めてきたいところです。庁舎内に文書の置き場所がなくなってきている問題もクリアできますし、テレワークの推進にもつながるかなと思います。

杉山さんあとは、道路をつくって一部分だけ残ってしまった不整形地のような、活用しづらい土地を利用したアイデアもいいですね。“ポケットパーク”のような形もありですし、イベントをやってみるのもいいなと思いました。

酒井最近だとプレイスメイキングの文脈で語られることが多いテーマですね。コロナ禍で注目されている、屋外の土地の活用。コワーキングスペースのように、民間が一緒になってつくっていく場の形成というイメージで“CO-MINKAN”みたいなキーワードにするとイメージが膨らみやすいかもしれません。

橋本さん民間さんからの提案を受けるなかで、公共施設の活用に意外と制約が多いことがわかってきたので、民間の場所を使って民間主体で運営してもらい、私たちはサポートの立場で参加できるといいのかな。

杉山さん後援や共催としてサポートする方法もありますね。実際に、民間事業者提案制度のなかで、民間の異業種交流会を市の後援事業としてやっている例もあります。共催のようなイメージでいくと、たとえば市の職員が在宅勤務をする際にスペースを使える協定をむすんで、うまくシェアを加速させるようなこともできそうです。

酒井そんなふうに半公共的にスペースを開いていくことができれば、街の多様なプレイヤーとのつながりも生まれそうですよね。

橋本さん私たちの部署で、市の課題を市民に伝える「出張講座」をしているのですが、これまで公共との関わりが少なかった方とお話しをすると、前向きな反応がいただけることが多くて。やっぱり待っているだけではなくて、外に出ていって民間の方や住民と話をするのが大切だと思うんです。そういうことがもうちょっと身近にできる場にもなる、公共と民間がほどよく混じる場所があってもいいなと思います。

杉山さん公民館的なものもあれば、街ライブラリのようなものもあったりと、いろんな形が考えられます。役所のスペースだけではなく民間さんのスペースもシェアして、いろんなアクティビティを通して官と民が一緒にその場所をつくり上げるようなことができたらいいですね。