官民連携で民間の空きスペースに“CO-MINKAN”をつくるには?

プログラムオーナーが「Dialog」「Monolog」を通して立てた問いに対しての“解”を探るミートアップ。初めて民間企業ではなく行政がプログラムオーナーを務めた今回は、3名の参加者が、東村山市にある空きスペースの活用方法について発表しました。それらのアイデアはスポーツや芸術などさまざまな領域におよび、対行政ならではの議論が生まれるなど、ミートアップの新たな可能性を感じさせる機会となりました。

member
  • 門脇寿光(株式会社HANG 取締役 兼 東京営業所長)
  • 中島かんな(看護師)
  • 櫻井麻樹(俳優/千夜二夜 代表/ライフコーチング)
<東村山市>
  • 杉山健一(経営政策部資産マネジメント課 課長)
<ファシリテーション>
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

子どもも大人も生き生きできる、演劇ワークショップ

最初に発表した櫻井麻樹さんは、俳優であり、演劇の手法を使ったライフコーチングを行っています。代表を務めているパフォーマンス団体「千夜二夜」で取り組んでいるのは、子ども向けの作品づくりや、海外のアーティストとの国際交流。演劇を通して楽しく生きる手助けがしたいという思いのもと、幅広く活動しています。

今回は、「千夜二夜として、市民の人たちに向けた参加型のワークショップを開きたい」とミートアップに参加しました。

「コロナ禍でできることが制限され、日々の喜びや楽しく生きるための目標が持てなくなってしまった人が多くいます。それを解決するために、体を動かし、小作品をつくって発表するワークショップができたら。参加者の年齢は10歳から65歳と広く設定し、子どもと大人が一緒に生き生きできる場をつくりたいです。
みんなでコミュニケーションをとりながら、作品づくりという目標に向かって楽しく進む。パフォーマンスを見に来てくれた人も、刺激を受けて元気になります。それらの人から、さらにほかの人に伝わっていき、良い影響の連鎖が生まれるのではないでしょうか」

この活動を通して「行政の方、市民、企業、スペースを提供してくれる方など、千夜二夜のコンセプトに賛同して活動を応援してくれる方とつながって、より豊かに発展していきたい」と話す櫻井さん。多摩地域のいろいろな街でコラボレーション活動を広げていきたいという思いもあると言います。

「日本ではアーティストの価値が低く見られがち。でも、アートによって救われる人がいることも事実ですし、僕も重要であると思っています。作品の発表会やワークショップなどを通して暮らしにアートが根づき、人と人とがつながり、やがて、日々を楽しく生きるための表現をそれぞれが見つけていく。そんな社会をつくっていきたいです」

発表を受け、「民間さんのスペースやコネクションも使いながら社会課題を解決するところに、すごく可能性を感じました」と東村山市の杉山健一さん。ファシリテーターを務めた酒井博基は「継続していくことを考えると、資金面についても盛り込んでおいたほうがよさそうです」と前置きし、こう話しました。

「たとえばパフォーマンスを映像に収めて、東村山市が“推したい”場所で順番に上映していくというのはどうでしょう。つまり、予算化されているシティプロモーションとして、東村山市のあらゆるスポットを巡るんです。ちょっといやらしい言い方をすると、すでに予算がついているものや、行政が予算をつける同意をしやすいものの要素を演出として少しだけ取り込むと、実現しやすくなるのではないかと思いました。
昨今は、著名なクリエイターが手がけた美しいものよりも、背景にきちんとストーリーを持ったものが求められている。櫻井さんと市民が一緒になってつくり上げる、そのプロセスこそがストーリーになるんです。そうやってひとつ“型”をつくると、展開もしていきやすくなると思います」

さらに「まずは子どもを対象としたワークショップを開くことから始めるのもいいかもしれません。その後だんだんと保護者や地域の高齢者も巻き込んでいき、発表の場を広げていくことで、資金面でも継続していきやくなると思いました」と杉山さん。その後はクラウドファンディングを活用する案なども飛び出し、議論は熱を帯びていきました。

スポーツをハブにしたコミュニティづくり

続いて、スポーツ機器の開発・販売を行っている株式会社HANGの取締役、門脇寿光さんの発表です。

2年前に奈良県から多摩地域に移り住んだ門脇さん。長年スポーツに携わり、特にライフワークである野球を軸に活動しています。
今回発表したのは、民間のスペースを活用して、スポーツを中心に多目的に使える屋内型のコミュニティスペースをつくるというアイデア。野球のレッスンスペースや、子どもたちが遊ぶボルダリングやトランポリンなどの設備をそなえるほか、スポーツの写真を撮っている人が作品を発表できたり、高齢者がゲートボールやモルックなどをする場としても使えるというものです。

「日中は高齢者に、学校が終わる夕方以降は子どもたちに使ってもらえたら。利用者以外にも、内装を工業高校や美術系の学生に手がけてもらうとか、いろんな人を巻き込んでいきたいです。
人と人とがつながるということは、コロナにおいて最も大切なことのひとつになってきたなと。交流することで望まない孤立を防ぎ、健康と生活を向上させられるのではないでしょうか。櫻井さんのワークショップも、このスペースで一緒にできたらいいなと思いました」

さらに、「たとえば廃校を丸ごと使っても面白いと思います。カフェなんかのお店が出店すれば就労も生まれますし、仮想通貨を使って『○○タウン』みたいなものをつくる」と構想を語りました。

門脇さんの発表に、杉山さんはこうフィードバックしました。

「壮大なコミュニティの場というイメージですね。とても素敵です。東村山では、廃校や大きな団地の空きはないので、コンパクトな商店街の空き店舗とかがいいかもしれません。そういう場所で高齢者向けからスタートしつつ、児童館などと協業しながら子ども向けの取り組みにも広げていく。マネタイズを抜きにして考えると、すごく面白いし、実現できそうだなと思います」

続いて「規模感の再設定が必要かもしれないですね」と酒井。「“大箱”の運営が難しくなっている時代には、小規模で気軽に人々が集えるような場所がマッチしそうです。特に地域コミュニティに参加することが少ない年配の男性に集ってもらうためには、野球の話で盛り上がれるような場所も有効なのでは」と語りました。

住民と行政をつなぎ、身近な困りごとを解決する

最後に発表した中島かんなさんは、国立市でまちづくりや子育て支援のNPO立ち上げに携わり、市や子どもに関わる人たちとさまざまな取り組みをしてきました。

「あらためて振り返ると、今まで自分がやってきたことって、やりたいことがある人と困りごとがある人のマッチングだったなと。暮らしのなかで困りごとがある人がいても、行政の窓口にたどり着くまでにものすごく時間がかかってしまったり、困っていることを言語化できないケースも多いんです。私はそういう困っている人と行政の間に立ち、まずは困りごとを認識してもらったうえで、どことつなげてあげるのがいいかなとか、そんなことをずっとやっていました。東村山にも、そういうことを持続的にできるシステムをつくりたいなと思っています」

空き店舗を抱えている人と商店をやりたい人をつないでシェア商店、カットモデルを探している美容師と、さまざまな理由で美容室にいけない人のマッチング、使われていない農地を活用した農業体験など、数々の具体例を語った中島さん。子どもや地域に住む人の徒歩圏内にある東村山市のスペースを使い、それらの拠点を点在させたいと話します。過去に取り組んだものも多く含まれており、それらは「あそこの誰々さんが困っているからとか、ごく身近なところから始まったものばかり」だと言います。

酒井は中島さんのアイデアに対し、「そういう個人的な困りごとには、きっと行政は対応できないんですよね」と話します。

「税金で運営されている以上は、住民の総意に沿うことをしなければならない。でも“みんなのために”が結局誰のためにもなっていないことも多々あって、それは行政が持つジレンマなのかなと。たぶん、個々のライフスタイルが多様化したことで、“みんな”っていうものでひとくくりにできなくなってしまったからだと思います。
行政が担える大きな役割もある一方、個々の暮らしの問題は行政だけでは解決されないから、住民自らが動く。でもそのとき、市役所のどこの窓口に相談したらいいかわからないし、部署の領域が限られているので『ここから先はほかの部署が担当なので』と言われることもある。なので中島さんは、行政の窓口に行くのではなく、その手前の話し合いの場みたいなものがあればいいなと考えていらっしゃるのかなと解釈しました」

酒井に「まさにそうです」と返す中島さん。杉山さんは「中島さんのアイデア、すごくいいと思います」と話します。

「行政はスキルのシェアをコーディネートするようなことが苦手ですし、担当者が異動して代わったら急にうまくいかなくなることもあります。だから、中間支援組織のような役割を、民間事業者だったり中島さんのような市民の方に担っていただけたら。全部が民間さんで済ませられるものでもないし、行政も関われるところもある。それをうまくコーディネートしてもらえるとすごくいいと思います」

こうしてミートアップは終了。参加者のアイデアには重なる部分が多くあり、それぞれに協業できそうだとみなさんで連絡先を交換していました。
ここから、行政と民間企業、個人の新たな連携が芽吹いていくかもしれません。

行政にはない発想で、社会課題に一緒に立ち向かう

終わりに、今回のミートアップを振り返りながら、酒井が杉山さんにお話を伺いました。

酒井率直に、今回のミートアップはいかがでしたか?

杉山さん特に面白いなと思ったのは、中島さんの“ニーズの掛け合わせ”ですね。個々で見てしまうとなかなか進めづらいですが、掛け合わせて解決すればいい、ライトに楽しみながらやっていきましょうという発想は行政にはなかなかない。
門脇さんも、野球というマスなものが軸にあるけれど、マスに訴求するためにもほかのスポーツも取り入れるとか、プロの方を育成するということではなくて生活に溶け込む形でスポーツを考えるという点が新鮮でした。行政はマスに寄ってしまう傾向がありますが、軸を大事にしつつもほかのところにも手を伸ばすという発想も、本来はあってしかるべきなんだろうなと思いました。

酒井例えばスポーツ事業をしている企業さんだと、事業をやっているうちにコミュニティが生まれていくだろうと考えると思うんですけど、野球を通じてコミュニティをつくりたいという逆の発想は個人ならではですよね。

杉山さんそうですよね。桜井さんも、ご自身の専門領域からスタートしてコミュニティに手を伸ばしていくという逆転の発想だと思うんですが、目指しているところは行政と一緒というのが面白くて。演劇やアートは行政には全然ないジャンルではあるのですが、社会課題に対しては、同じように向き合って一緒に解決しに行こうみたいな共同戦線を張ることもできるんじゃないかと感じました。そういう人たちがいらっしゃると知ること自体が重要で、行政のやる気も変わってくると思います。

酒井普段やられている提案制度と、今日のような話し合いの場の違いはどんなところに感じましたか?

杉山さん提案制度は事業化に近いんですが、今回のミートアップはオープンイノベーションの一歩手前の意見交換みたいなイメージだと思います。行政に受け入れられやすくするにはこうやったらいいんじゃないかとか、そういう話が率直にできたのがよかったですね。企業でいう営業機密みたいなところはオープンにできないけれども、その手前の部分だったらオープンにできる。そういう感覚を今日は持ちました。