みんなの居場所になる、街のリビングのような場づくりを

京王電鉄が、泉山塁威さんとの「Dialog」を振り返りながら「地域×企業」の問いを抽出するための会議を行いました。京王電鉄の3名と多摩未来協創会議ディレクターの酒井博基が議論し、2021年10月27日(水)のミートアップ会議に向けたテーマを設定します。

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  • 北田明(開発事業本部 プロジェクト推進部 聖蹟桜ヶ丘プロジェクトチーム 課長)
  • 田中寛人(開発事業本部 プロジェクト推進部 聖蹟桜ヶ丘プロジェクトチーム 課長補佐)
  • 京増多美恵(開発事業本部 SC営業部 主任/京王聖蹟桜ヶ丘SC 主席チーフ)
  • 酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

誰かとつながれて、ひとりでもいられる徒歩圏内の居場所 ― 泉山塁威さんとの「Dialog」を振り返って

酒井博基(以下「酒井」)北田さんと田中さんは、前回のDialogからどのような気づきを得ましたか?

北田明さん(以下「北田さん」)コロナ前は、通学や通勤で強制的に平日の移動が生まれていただけでなく、休日も定期券の影響を受けて行動する、つまり“定期圏”がつくり出されていたことにあらためて気づきました。移動に対する考え方や価値観が変わったり、移動する範囲が狭まったりしているなかで、身近な生活圏というものの重要性がより高まっているという話は、すごく重要だと感じましたね。

田中寛人さん(以下「田中さん」)生活圏のなかで豊かな暮らしを送れるような街にするには、“身近な目的地”が必要だという話があったと思います。その目的地のあり方自体も、今までのように「買い物ができればいい」だけではなく、「友達に会う」「野外で気持よく過ごす」といった、人間の根源的な欲求を満たすものが生活圏に求められるようになってきたというのが印象的でした。

北田さん個々人のライフスタイルや価値観で目的地は変わるでしょうし、同じ人でもその日の気分によって変わる。それを、それぞれの街が打ち出すべきキャラクターや特徴とどうリンクさせていくかというのも大きな課題として出てくるかと思います。

酒井京増さんは今回のMonologからの参加ですが、Dialogの内容を聞いてどんな感想を持ちましたか?

京増多美恵さん(以下「京増さん」)人は徒歩や自転車で行ける範囲を生活圏内としていて、そのなかで多くの時間を過ごしているというお話は、なるほどと思いました。私自身、自粛期間は行動範囲がすごく狭くなりました。食料品の買い物は近くでもできるけれど、毎回同じお店だとつまらなく感じてしまい、わざわざ少し離れたスーパーに行くこともありました。そのとき、街のなかに行きたくなるような場所がもっとあったら、住んでいる街をより好きになると感じましたね。

酒井北田さんと田中さんは、実体験から感じたことはありますか?

北田さん街のなかでのつながりが希薄だったと気づきました。目的地のハード面、たとえばサテライトオフィスとか、コンセントがあるカフェなどはネットで検索できますが、ソフト的に居心地のいい場所が地元にあるかどうかはわからなくて。もともといろんな場所に通っていないと難しいですよね。

酒井特に男性はそれを感じたかもしれないですね。もともと昼間は自分の街にいなかったですし、「生活圏のなかで軽く挨拶できる人がいない」という方が多いのではないでしょうか。

田中さん僕も、人とのつながりという比喩的な意味でも、物理的な意味でも“居場所”がないなと感じていて。たとえば、自宅以外で気分転換をしたくなったときに、ふらりと行けるような場所です。もちろんお金を払えばお店には入れますが、なじみの店ではないのでちょっと居心地が悪かったり、公園も日中は小さい子どもがたくさんいるのでスーツだと浮いてしまったりします。街なかに自宅以外の居場所があったらいいなとすごく感じていますね。

北田さん郊外の広めの家に住んでいると、自宅に快適なワークスペースをつくることもできると思います。ただ、外部とまったく接触せずに仕事ができる環境をつくれたとしても、それで健やかに生きていけるかどうかは疑問ですよね。起きて、食事をとって、仕事をして、また食事というルーティーンだと耐え難い部分があって、やはり誰かの存在を感じられる場所が生活圏に必要だと思います。今までは会社に行くことでそこが満たされていましたし、コミュニティに属している実感もありました。これからはその代替機能が街に求められるのではないでしょうか。

利便性だけではない、これからの価値観に沿うために ― 京王電鉄の課題意識

酒井多かれ少なかれ、すべての人の価値観に変化が生まれた1年半だったと思いますが、今、京王電鉄としてはどういうところに課題感を感じていますか?

北田さん前提として弊社は、鉄道に乗ってきたお客さまが利用する駅の周辺で、商売が安定的に稼働してきたという歴史があります。ですから、お客さまが駅や駅ビルに求める利便性を実現してくれるテナントさんを連れてくることに注力してきました。ところが今、お客さまが求めるもののなかに「街や人とのつながりをつくること」が入ってきているとすると、人気のチェーン店を連れてくるだけでは不十分。これからの価値観に寄り添うような場づくりが必要だと思います。

酒井まさに価値観の変化ですよね。利便性を第一に、駅を中心に街が形成されていたのが、今は移動が起点にならないので“中心部”が消失している。中心部があるからこその利便性に代わるものを、これまでとはまったく違う考え方で場づくりをしていかなければならないんですね。京増さんはまさにSC(ショッピングセンター)担当ということで、そのあたりをどう考えていますか?

京増さん担当している京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンターは今年3月に35周年を迎え、そのときのテーマを「つながり」としました。地元の方に日々のご愛顧に対する感謝のインタビューをさせていただいたとき、「開業したときから来るのがすごく楽しみで、今もずっと通ってますよ」というお声をいただきました。リアル店舗にお買い物に来られる方というのは、ネットでは感じられない人とのつながりや雰囲気を楽しみたくて足を運ぶのだと思うんですね。地元の方が強い親しみを感じてくださっていることをあらためて実感することができ、事務所のみんなもすごく喜んでいました。

酒井35年間、お客様と丁寧にやりとりをすることで街のなかに根付いていった。そこにまたスポットを当て直すようなことをされているんですね。

さまざまな視点から“身近な目的地”になるイベントを考える ― 次回「Meetup」に向けて

酒井Meetupでは、どんな人たちとどのような議論ができたらいいと思いますか?

田中さんいろんな方とお話ししたいとは思っていますが、たとえば京王線沿線の地域に対して、思いを持って場づくりなどの活動をしている方とお話ししてみたいです。駅を中心に展開してきた私たちの街に対す目線と、地域の方々の目線って違うと思うんですね。なので、そういう方と意見を交換したり、一緒に場づくりを考えたらおもしろいのではないかと思います。

北田さん場づくりの具体的な空間イメージはまだ見えていないのですが、ほかの街から帰ってきたときに、まずそこに顔を出してから帰る“街のラウンジ”のような場所がつくれたらいいですよね。聖蹟桜ヶ丘だと、駅を出るとそのまま家に帰るか、ショッピングセンターに寄って食品を買うぐらいの人が大半。消費活動をすることはあっても、街での滞留を楽しむようなことはあまりないと思います。街に住んでいる人の顔が見える場所がなかなかつくれていないなと。

お酒を飲んでいる人もいれば、食事をしている人も、仕事をしている人もいる、そういう場所があれば、コミュニティを感じるきっかけにもなるでしょうし、街に住んでいる実感にもなる。ひいてはそれが街の目的地のひとつになるのかなと思います。

京増さん私は商店街の方ともお付き合いさせていただいているのですが、けっこう年齢層が高くなってきているんです。若返りを図るわけではないですが、新しい発想も取り入れるという意味で、なにか新しいことを駅の周辺でやりたいと思っている世代の方や、「新しくなにかに取り組んでみたいけど、どうすればいいかわからない」といった団体の方ともお話できたらいいですね。

北田さんDialogで「ウォーカブルなエリアに身近な目的地がちらばっていれば、それが街の特徴になる」という話題がありましたよね。具体的な場づくりのアイデアではなく、ウォーカルブルなエリアをどうつくっていくかというテーマのほうが適応度の高い話ができるかもしれません。

酒井あるいは、イベントに絞ってしまうのもいいですよね。「多摩エリアの豊かな自然を生かした、ウォーカルブルな生活圏内を豊かにするイベント」というイメージです。

北田さんイベントを企画するときには、一度限りで終わってしまうお祭りではなく、次につながるようにすることを意識しながら考えていくことが大事なので、そのあたりも含めて議論できたら。ホストとゲストに分かれて集客だけを目的にしたイベントではなく、そこで生まれた体験やつながりが日常に浸透していくような場がつくれたらいいですね。