日常の導線を市民活動の場に。商業施設に市民が愛着を持つ兆しが見えたイベント

2020年8月31日のミートアップで発表した2つのアイデアが1つの企画になって、2021年2月21日・28日に開催されました。それがセレオ国分寺で開催された『おしごと体験講座』です。28日の子ども古本市開催日当日に、子どもたちに向けて古本屋コースとライターコースを開催するまでの経緯、準備、そして未来の協創につながる過程について聞いてきました。

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  • 小坂昌代(主婦/シェアリング・ラーニング 共同代表)
  • 髙橋篤史(株式会社JR中央ラインモール)
  • 石川理麻(フリーライター・エディター)
  • 聞き手:酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

2つの企画を1つにする新しい試み

酒井博基(以下、酒井)大盛況ですね。2020年8月末の多摩未来協創会議でミートアップを行った際に小坂さんが発表した内容が実現しました。あのミートアップが終わったあと、どのような経緯で開催に向けて動きはじめたんでしょうか?

小坂昌代さん(以下、小坂さん)確か10月ぐらいでした。JR中央ラインモール(以下、ラインモール)さんから「より深く話しませんか?」とメールでお誘いいただいたんです。

酒井それは髙橋さんが連絡したんですか?

髙橋篤史さん(以下、髙橋さん)いえいえ。以前の担当者からお話しして、私は2回目の打ち合わせから顔を出しました。ちょうどこのセレオの会議室で、「さあ、これからどうやっていきましょう」という話がスタートしたんですよ。

小坂さん私はミートアップで企画を3つ出したのですが、そのうちの2つの企画を一緒にやってみたらどうでしょう?とラインモールさんからご提案いただいたんです。

髙橋さんせっかくだから2つの企画を混ぜるのがいいんじゃないかという話になりました。入り混じっているっていうのは実際の社会でも起きていることですし、これからのコミュニティをデザインしていこうと考えた場合でも、混ぜることで何かひとつ大きくなるというのはおもしろいことだったんです。2つの企画を混ぜるというのは、私たちにとっても挑戦的であり、できるか心配な部分もあったんですが、実際にここまでたくさんの方にお越しいただけて、とても嬉しいです。

企業と地域がつながって実現できること

酒井小坂さん自身、普段から学校や地域でご自身の活動をなさっていますよね。それは個人で地域とつながる活動だと思うんですが、企業と組んでみて変わったことはありますか?

小坂さん今回、私の役割は各コースの講師を調整したり、必要なものを準備したりすることだったので、普段の活動と変わりませんでした。ただ、決定的に違ったことはラインモールさんやセレオ国分寺さんの担当者の方々がプロとして関わってくれたところです。ボランティアやPTAでの活動は参加する人それぞれができる範囲で動いていますが、企業の皆さんはプロとして、私が話したことをすぐ企画書やポスターにしてくださったりしました。それは、普段の活動だとつまずきやすいところで、本当にストレスなくスイスイ進んでいったんですよ、後半になるにつれて、「ここは私たちが担当します。こちらはセレオさんがお願いします」といったように、得意分野で役割分担しながら進めていける、チームのようになって、どんどん楽しくなっていきました。

髙橋さん楽しかったですよね。小坂さんは、私たちが普段つながることのできない地域の人とのネットワークをお持ちです。当日の様子を見ていても、来ているお客さまたちが企画に参加している子どもたちと、親しい家族なんだろうなとわかるんです。それは、私たちだけで企画した際の参加者さんとは違っていて、ただ参加するというよりも企画に参画してくれるようなお客さまなんだと思います。これは小坂さんのような地域の方々と一緒にできたから実現したことなんですよ。

酒井ラインモールさんは以前から「参加から参画へ」とおっしゃっていましたね。ただ参加するんじゃなくて、参加する人たちが主体的につながっていくということですが、あえて企業と地域というように今回の取り組みをわけて考えてみたときにどんな可能性が生まれていたと思いますか?

小坂さん地域の市民側からすると、企業の方々とコラボレーションさせてもらうことで、普段とは違う場所を使うことができました。会場もそうですが、駅のコンコース沿いに告知することができたように皆さんの日常の導線を利用できたことは大きいです。SNSやインターネットを使って告知するだけではなくて、駅で企画のことを知った方々から、「見たよ!」って声をかけていただくことがとても多かったんですよ。それは、この地域で生活している、より多くの人の目に実際に触れたっていうことだと思うんです。

酒井日常的に使っている導線というのは、ある意味で非常に経済的な渦中にある場所で、自由にポスターを掲示することも難しい。だから、普段の活動とは交わっていなかったけれど、企業と組むことでより身近な場所に自分たちの企画をつなぐことができたところに可能性を感じたわけですね。企業の目から見ると、どんな可能性がありましたか?

髙橋さん我々からすると真逆なんですよ。場所は持っているけれど、場所貸ししているだけではいつか限界がくるだろうということは見えているんです。だから、きてくれた方に喜んでいただいて、場所に愛着を持ってくれることが大事だと思ってます。そういうことが今回の企画では実現できるような気がしているんです。

明日に明るい兆しが見えた企業と地域の関係

髙橋さんそれに、違った面でも可能性を感じました。古本コースとライターコースには、それぞれの企画を支えてくれる講師の方々がいるんですが、普段の企画だったらそういう方々ってイベント会社の先にいるだけの人なんですね。それが今回は一緒に企画をつくるパートナーのような関係になれました。お金で終わってしまう関係じゃなくて、仮にこの企画が失敗していたとしても、打ち上げで2次会まで話が尽きないくらいの関係で今日を迎えることができたんですよ。参加から参画へ、つまり協創っていうことを考えたときに、何かを失敗したら誰かのせいにする関係よりも、「あれは残念だったね」ってお互いに話せる関係になれることは可能性だと思いました。

酒井例えば、ライターコースの講師を担当した石川さん自身は今回どのようなことをしたんですか?

石川理麻さん(以下、石川さん)小坂さんとは以前から知り合いで、国分寺で子どもたち向けに何かしたいなって話していたんですね。それで今回の機会があった際に声をかけてもらいました。私自身はライターコースで子どもたちにいつも書いている文章とは違うものを書いてもらえるように教えていったんです。今回は新聞を書くことにして、古本コースの子どもたちのことを記事にすることになりました。だから、記事を読んだ人が「この本ほしい」とか「子どもたちがこんな楽しそうなことをしていたんだ」とか、共感や納得してくれる文章を書こうって伝えたんですよ。それって難しいことなので、2日間に分けて座学、取材、記事づくりを実施したり、本番の取材がしやすいように取材シートを用意したりして、子どもたちでもちゃんと記事を書けるように準備しました。

酒井実際にこうして企画が開催できたことへの感想はありますか?

小坂さんこの1年は特に新型コロナウイルスのことがあって、地域や学校で企画を開催することはほとんどできませんでした。今回も年明けに緊急事態宣言が出たので中止かなと思ったんですが、できる限りのことをやろうと皆さんが励ましてくれたことがすごく大きかったです。実際に募集をかけたら定員がすぐに埋まって、保護者の方々からも「体験する機会が失われたこの1年だったので、よく企画してくれました」という声をいただけました。

酒井最後にこの協創を今後どう発展させていくのか、展望を教えてください。

髙橋さん小坂さんと組んでみて実感できたのは、地域の方から「地域にはこんな方々がいますよ」と教えていただけたこと、それ自体が実は財産だってことなのです。なので、小坂さんをはじめ、他にもいらっしゃる地域の方々とこういう形で何かをつくることができていったらいいなと思っています。それは国分寺に限らず、中央線の『線』を使って、地域を超えて取り組んでいけることだと思っていますし、自治体を超えて仕事をしていくのは我々のひとつの形になるだろうなと思いました。そんな風に今後もいろんなことをしていけたらいいよねと、今は頭のなかでいろんなアイデアが広がっています。

小坂さんこうした企画が実現できたのは、ミートアップの場を設けていただいた多摩未来協創会議のおかげです。きっかけを作ってくださって、ありがとうございました。