現地取材を通して書いた、学生たちの連載コラムが1冊に

本サイトで連載した全10回の「地域×企業→未来 ながしまゼミの多摩エリア研究」。多摩大学経営情報学部の長島剛教授が率いる「ながしまゼミ」の学生が取材・執筆したこのコラムが、このほど1冊の冊子になりました。鉄道会社やスーパーマーケット、研究機関などさまざまな視点から多摩エリアに迫るなかで大切にしたことや、これからの多摩エリアに馳せる想いとは? 3名の学生にお話を聞きました。

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  • 多摩大学経営情報学部 ながしまゼミ3年 藤田龍斗
  • 多摩大学経営情報学部 ながしまゼミ3年 名古 翼
  • 多摩大学経営情報学部 ながしまゼミ2年 佐々口珠莉
  • 聞き手:酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

現場で見聞きし、感じたことを書くのが一番おもしろい

酒井博基(以下、酒井)あらためて「地域×企業→未来 ながしまゼミの多摩エリア研究」の概要を教えてください。

藤田龍斗さん(以下、藤田さん)ながしまゼミの学生による、“地域×企業”に深く注目したコラムです。地域の歴史や、多摩エリアにあるいろんな企業に足を運んでお話を聞いたり、インターネットで調べたりして知った企業と地域の深い関わりを学生からの視点でまとめています。

酒井執筆にあたっては、どのように役割分担をしたんですか?

藤田さん3班に分かれて、全10本を3本ぐらいずつ担当しました。各班の人数は3〜4人。スケジュール管理は基本的に班長がやっていましたね。

酒井多摩エリアで活動している読者の方からは、このコラムを読んで地域の産業の成り立ちを詳しく知ることができた、意外な発見があったという反響がありました。執筆を通して勉強になったことや、苦労したことはありますか?

藤田さんもちろん学生も頑張ったのですが、サポートいただいた編集者の野村さんという方と長島先生に助けていただいたおかげで書き終えることができました。勉強になったのは“現場で学ぶ”ことです。インターネットで得られる情報量には限界があって、やっぱり実際に見聞きしたことや感じたことを書くのが一番おもしろいですよね。

難しかったのは、読む方全員に伝わる文章を書くこと。一番重要視していたところでもあります。僕たちは内容が頭の中に入っているので、難しい単語が出てきたりしてもスルーできてしまうんですよ。でも読む側からすると「この単語いきなり出てきたけどなに?」と疑問を持ってしまう。それを考慮しながら書くのに苦労しました。

もうひとつはメンバーとの意思疎通です。対面で集まることができなかったので、会議はすべてオンラインで行い、チャットツールでコミュニケーションをとりながら進めていったのですが、やはり直接会えない影響は大きかったです。

名古 翼さん(以下、名古さん)僕が一番苦労したのは情報処理能力です。やぶからぼうに情報を探すという方法ではなく、ネットの検索テクニックのやり方から勉強しました。そうしたら作業効率がすごく向上して、目的の情報を早く見つけることができるようになりました。

左から、藤田龍斗さん、佐々口珠莉さん、名古 翼さん。

取材や執筆を通して、多摩エリアへのイメージが変わった

酒井内容について伺っていきたいのですが、まず、みなさん自身は多摩エリアにどういう印象や可能性、もしくは課題を感じていましたか?

藤田さんこの活動をしていなかったら、多摩エリアの優良企業を見つけるのって難しかったんじゃないかなと思っていて。特にBtoBの会社には触れる機会が少ないので、就活するときもすぐには選択肢に入ってこないと思います。でも、この活動を通して優良企業を知りましたし、その情報をほかの学生たちにも広げていけたら、多摩エリアで働きたいと考える人が増えて、都市部への流入ももう少し抑えられるかもしれません。

酒井ちなみに藤田さんが考える「優良企業」というのは、どういった企業でしょう?

藤田さん将来性や働く環境など、いろんな条件が考えられますが、一番はおもしろいことをやっていることでしょうか。これまでに取材で伺った企業のなかにも、実はこんなことをやっているんだという企業が多くあって。たとえば東成エレクトロビームさんは小惑星探査機「はやぶさ」の開発に携わっていると聞き、世界から注目されるような精密機械が多摩エリアでつくられているんだと驚きました。

酒井佐々口さんは多摩エリアについてどう感じていましたか?

佐々口珠莉さん(以下、佐々口さん)私は横浜に住んでいて、大学に入るまで多摩エリアについて知る機会がありませんでした。漠然と、田舎でなんにもないところだと思っていたんです。でもコラムの執筆を通して、多摩の歴史はすごく分厚く、地域密着型でいろんな企業がたくさん活動していることを知って、なんだかあたたかい地域だなというイメージに変わりました。

印象的なのは、最初に担当した自動車産業のことについて書いたコラムです。戦時中の多摩エリアには飛行機会社があって、それが自動車産業に発展していったことを知り、普段なにも考えずに見たり使ったりしているものにも意外とおもしろい背景がつまっているんだなと感じました。

酒井軍需産業から民需産業へと変化していくなかで生まれた、技術に裏付けられた企業があることにポテンシャルを感じますよね。名古さんはいかがでしょう?

名古さん執筆を通して、多摩エリアの歴史は独自につくられたというよりも、外部から感化された部分が強い地域なのかなと思いました。繊維産業、金融機関、スーパーマーケット、どれもほかの地域からの資金の流入や地域性のつながりで成り立っているという印象があります。

多摩は少子高齢化が進んでいるエリアなので、今後希薄化するであろうほかの地域との関係を、新しく確立していくことが課題なんじゃないかと思いました。たとえば、ほかの行政と協力し、企業を誘致して魅力的なまちづくりを推進することが必要だと思います。

大切なのは、同世代に地域の魅力を広めていくこと

酒井先ほど藤田さんがおっしゃっていたように、優良な企業があることを同世代に知ってもらえたら、ひょっとすると若者が入ってきたりすることもあるかもしれないですよね。住むという視点では、多摩エリアはどうですか?

名古さん大学に入って川崎にある実家から多摩エリアに引っ越したのですが、これからも住み続けたいです。少子高齢化で閉塞感が漂っているところもあるので、僕が労働の担い手として地域に貢献したい。コラムの執筆を通じて地域が抱える課題を学んできたので、その課題を解決するためにもそうしたいなと思いました。

酒井これから多摩エリアがどうなっていけばいいと思いますか?

佐々口さんゼミの活動で多摩エリアにはたくさん魅力があることを知りましたが、そういう情報が多摩大学のなかとか、ゼミのなかでしか広まっていない気がします。藤田さんが言ったように、同世代の人たちにもっと広めていけたら、個々の企業さんや多摩エリア全体が発展していけるし、ほかの地域の人にも多摩のよさを伝えていけるんじゃないでしょうか。私自身、まだ地元の横浜への愛のほうが強いのですが、多摩にはもうちょっと伸びしろがあるなと感じています。

藤田さん僕は小金井市出身で、1年前まで小金井にずっといたのですが、去年から学校の近くでひとり暮らしを始めたんです。小金井も多摩エリアですが、佐々口さんと同じで、地元を超えてくるような多摩市の魅力はまだ見つけられてなくて。地元愛っていう着眼点、すごくいいですよね。そこを突き詰めると魅力発信につなげていけるんじゃないかと思いました。

完成した冊子をゼミのメンバーたちにも配布。

両親や身近な友だちに冊子をわたしたい

酒井最後に、冊子ができあがった感想を聞かせてください。

佐々口さん連載が始まった当初は、コロナの影響でインターネットでのリサーチが中心だったのですが、だんだんと企業に伺ってお話を聞いたり、写真を撮りに行くために自分で足を運んだりすることができるようになりました。冊子ができあがったことで、現場で学んだことが吸収できたなとより実感できるんじゃないかなと思います。多摩エリアへの地元愛を深めるためにも、この冊子を住んでいる人全員にわたしたい気持ちです。

名古さん自分が一番よかったのは、やっぱり多摩エリアの現状を知るきっかけが得られたこと。それが1冊の冊子になり、ほかの人の手にもわたっていくことで、多摩のことを知らない人にも現状を知ってもらうためのひとつの成果物をつくることができてよかったです。父や母にもわたしたいですね。

藤田さん僕はまわりの友だちにあげたいです。地元を歩いているときに、この場所は実は昔こうだったんだよとしゃべれるのもすごく楽しくて、そういう情報を周りに共有できたらと思います。

酒井佐々口さんは誰にわたしたいですか?

佐々口さん通っていた高校に持って行って、先生に見てもらいたいです。多摩エリアのことを伝えると同時に、これを書けるまで成長できる大学に通っていることを知ってもらって、多摩大学を志望する人をどんどん増やしていきたい(笑)。その人たちがながしまゼミに入って、またこういうものを作って高校に持って行って……という循環が生まれたらすごくうれしいです。