nonowa国立で実証実験。企業間協創が切り拓く、ニューノーマルな地域活性

JR中央ラインモールが運営する商業施設「nonowa国立」で昨年から行われている、日立製作所の技術を使った実証実験。お客さんの動きを見える化することで、感染防止や売上施策の一役を担っているといいます。多摩未来協創会議を通じて生まれたこの協創活動について、株式会社JR中央ラインモール 取締役の有座邦雄さんと、株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 研究員の山田健一郎さんに聞きました。

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  • 有座邦雄(株式会社JR中央ラインモール 取締役 営業本部長)
  • 山田健一郎(株式会社日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ 研究員)
  • 聞き手:酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

人の動きを見える化して、売り場の混雑を回避

酒井博基(以下、酒井)nonowa国立での実証実験が始まるまでに、どのような協議がなされたんでしょうか?

有座邦雄さん(以下、有座さん)日立製作所の山田さんとお話をさせていただいたのが、昨年の5月。まさにコロナ禍真っ只中だったので、私たちが運営するnonowa国立は課題満載のときでした。従来のような運営が叶わず、集客することなくお客さまにとっても働くスタッフにとっても安全に施設運営をするにはどうすべきか。さらにはこのコロナ禍の中、人が行き交う駅に直結した商業施設を事業展開する私たちは、次のステップに進むにはどうしたらいいか。当社だけでは解決し得ない課題を本音でぶつけさせていただいたんです。

山田健一郎さん(以下、山田さん)そういったお話をヒアリングさせていただき、私たち日立製作所としては、アフターコロナを踏まえた際にもさまざまな課題があると考えました。そこで実証実験を行う際の構想を、蔓延期から回復期の短期、社会活動が回復する中期、社会と産業構造が変化して価値観が変化した新しい世界に変わる長期という時間軸と一緒に提案させていただいたんです。このころは1回目の緊急事態宣言が解除されるかどうかの時期でしたが、早い段階で時間軸をもとに実証実験を行うことを構想していましたね。

酒井生活者としては、安心して効率的に買い物をしたい短期、安心しながら買い物を楽しみたい中期〜後期と、心情が変わっていくと思うんですが、実証実験ではどういった提案をされたんでしょうか?

山田さんnonowa国立さんに3D-LiDARというセンサーを設置し、人流という人の動きをデータ化して見える化することを提案しました。このデータをもとに、短期では混雑状況をマップ上で可視化してお客さまにも従業員の方にも開示し、安心して買い物ができる、働ける店舗とすることを目指しました。中期以降は人流とAI技術を組み合わせて、混雑回避以外の商業施設のさまざまな課題についても私たちの技術を使って解決していけたらと考えました。

nonowa国立の天井などに設置された3D-LiDAR。

酒井日立製作所さんからの提案を受けて、有座さんはどう思われましたか?

有座さん日立製作所さんの最新技術を使ってお客さまが安心してお買い物をできるなら、やれることはすべて取り入れていこうという思いでした。このような状況下での運営はこれまでの経験値でしかカバーできないと考えていたんですが、実際に混雑状況を見える化して開示したら、お客さまの行動に変化が起きて、売り場混雑の回避にもつながった。非常に有益な技術であることを実感しました。

混雑状況を可視化したもの。館内のサイネージにも表示され、来館者が自主的に混雑エリアを避ける行動も見られた。

スピード感を持って進んだ共創活動

酒井買い物客の立場からすると、データで行動を把握されることは、個人情報が抜き取られているのではないかと気になるところかもしれません。

山田さんプライバシーの取り扱いについては、テクノロジーの開発・研究を行う私たちとしても、最も重視している点です。だから今回は、映像や画像で記録するのではなく、人の動きだけを抽出できる3D-LiDARをあえて選択しました。買い物をしている方のプライバシー保護に留意しつつ、混雑度を情報として可視化できる。そこが今回の実証実験における大きなメリットかなと思っています。

有座さん現状nonowa国立にはセキュリティ用のカメラも設置していますし、特段ナーバスになる必要は感じませんでした。コロナ禍といった状況で、お客さまにいかに安心して楽しくお買い物をしていただけるか。それがあの時期に最もクリアすべき課題でした。そんな思いがありつつ、日立製作所さんと協創した実証実験は、素晴らしいスピード感で進んでいきました。

酒井nonowa国立の課題解決のため、日立製作所さんとしてもスピード感は大切にされていたんでしょうか?

山田さん安全で楽しい買い物は第一ですが、企業が運営している商業施設である以上、コロナ禍でもしっかりと売り上げを伸ばしていけるか、利益を出していけるか、ということをひとつの観点として大切にしていました。そんな思いもあって、先ほどお話したちょっと先の未来を見据えた時間軸の設定は、極めて大切な要素でした。

有座さん私たちとしては、日立製作所さんのスピード感についていくのがなかなか大変でした(笑)。それでも抱えていた課題がクリアになっていくと、当初は不要なのではと思っていた時間軸の設定が大切な要素だと理解できました。そこであらためて感じたんですが、フロアの動きやお客さまの動線って、年月をかけて、しかもアナログでの情報を経験値という形でしか蓄積できないと思っていたんですが、これは大きな間違いだったと。日立製作所さんの最先端の技術を使えば一目瞭然だったので。

実証実験後に開かれた最終報告会の様子。

協創を通じた地域活性化の可能性

酒井今回の取り組みで感じた課題点や可能性について教えてください。

山田さん多摩未来協創会議から始まった企業間協創は、いろいろな可能性を秘めていると感じています。弊社も一企業として利益を追求しなければならないので、私たちの技術を使った実証実験がどのように問題解決や価値提供につながるのか、将来の事業としての実績が必要でした。だからnonowa国立さんの実証実験の結果を踏まえて、私たちのビジネス面においても非常によい結果が得られたと思っています。あとは、多摩地区での社会課題の解決、経済発展に対しても、今回の協創で貢献できたのではないかと自負しています。

酒井山田さん、JR中央ラインモールさんとの協創だからこそ得られた、新しい気づきはありますか?

山田さんご一緒させていただいて感じたのは、地域コミュニティとのつながりを大切になさっていること。近年ECサイトなどの発展によって、消費者の意識が大きく変化している中で、実店舗がどのように消費者と向き合うべきか。そういった課題があると感じていたんですが、地域のコミュニティとつながりを持ち、地域の消費者の方々に愛され続けていくJR中央ラインモールさんのあり方に感銘を受けました。私たちも多摩地区の一企業として、地域コミュニティや、地域の社会課題解決にきちんと向き合わなければいけないと感じました。

有座さんそうおっしゃっていただけて、大変恐縮です。私たちも日立製作所さんとの協創を通して、たくさんの気づきに出会えました。我々の業界は、お客さまにものを販売し、その売上から賃料をいただく。これがビジネスモデルの根幹にあって、何十年も変わっていませんでした。だけど、このコロナ禍でその概念が大きく崩れたんです。そんな状況下で私たちはなにをすべきかと行き詰まっていたときに、まったく違ったジャンルの事業を行う日立製作所さんとご一緒させていただいて、次のステップを見出すことができました。集客がしづらいコロナ禍でも、打開策となるような手を打てるという柔軟性を得られたことは、商業施設を運営する企業として大きな学びになりました。

酒井両社とも得られたものが大きかったんですね。山田さんは地域との関わりを目標に掲げられましたが、JR中央ラインモールさんの今後の展望を教えてください。

有座さん多摩未来協創会議という枠組みにもかかわらず、私たちの課題を日立製作所さんに解決していただいた形になってしまいました。だからこそ、今回の経験を生かして、今後は地域の課題やソーシャルの問題を解決しながら、きちんと事業化につなげていけたらと考えています。2021年4月から組織体制が変わるんですが、地域課題の解決と地域活性にフォーカスした部署も立ち上げたので、来年度以降もそういった課題により積極的に組んでいけたらと思っています。

酒井人が行き交う場を持つJR中央ラインモールさん、最先端のテクノロジーを保有する日立製作所さん。2社が協創することで、お互いのビジョンを理解でき、企業としてよりステップアップ。さらにはその活動をもとに、地域の活性化にもつながっていく可能性を秘めていますね。それこそが多摩未来協創会議の目指すべき形なのかなと感じました。お二方、今日はありがとうございました。