スタートアップと大学生が取り組んだ、街の空席で人をつなぐシステムの実証実験。実感した確かな次への学びと1歩

多摩未来協創会議をきっかけに、建築設計事務所兼シェア商店「富士見台トンネル」で、空席シェアリングアプリを展開する株式会社ONESEATと大学生が、街にテレワーカーや学生の交流機会をつくる実証実験を行いました。検証を終えた今、どんな展望が見えてきたのでしょうか。

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  • 鈴木淳史(ONESEAT 代表取締役COO)
  • 坂根千里(一橋大学 社会学部4年/学生団体たまこまち 元代表)
  • 聞き手:酒井博基(多摩未来協創会議ディレクター/D-LAND 代表)

実証実験をともに行なった経緯

酒井博基(以下、酒井)ONESEATはカフェを中心とした飲食店の空席とテレワーカーをマッチングするアプリによって、飲食目的以外の来店機会をつくるサービスを提供しています。一方、坂根さんは学生団体として地域の古いアパートを改装し、ゲストハウスを営んできた経験を持っていらっしゃいますね。実証実験を一緒にすることになったきっかけから教えてください。

鈴木淳史さん(以下、鈴木さん)きっかけは多摩未来協創会議のミートアップに参加したことです。坂根さんがONESEATに興味を持ってくれて、そのあとすぐに連絡をくれました。それで国立をベースとして、僕らは何かを実験したい、坂根さんも地域に対して何かアクションしたいっていうところで一致して、一緒に何かできないかなと考えていったんです。

坂根千里さん(以下、坂根さん)私自身、自分のアイデアをミートアップで発表した際にONESEATに近いことを考えていました。だから、ONESEATがユーザーインタビューをするタイミングで私自身が興味のあることを試せたらと思い、一緒にやりませんかとお声がけさせていただきました。学生として活動してきたので、利益追求が当然必要な企業のスタートアップ期はどのようなものなのか知りたい気持ちもあって、お互いのやりたいことを試しながら挑戦できたらいいなと思いました。

鈴木さん僕らも国立の大学生と一緒に取り組めることはメリットだと思いました。学生っていう切り口で、僕らが話しかけることが難しい立場の人との接点も持てるんじゃないかと考えたんですよ。

話し合いを通じて決めた実証実験で検証する仮説

酒井2組が一緒に挑戦することを決めたあと、どんな話し合いをして今回の実証実験をすることに決まったんですか?

鈴木さん僕らはシステムを使って場所と人をマッチングしようと考えていました。一方で坂根さんは対面で温もりのある場所づくりを求めていたんです。なので、その両方を狙いに定めて何がしていけるのかを考えました。

坂根さん実証実験なので、どんな仮説を検証していくのかが重要でした。その仮説を立てる話し合いの際に、私の考えとグロースしていくサービスを開発したい人たちの考えは少しズレていることに気づいたんです。ただ、グロースしていくにも、ターゲットやそのターゲットが抱える課題、あるいは求めることは何かといったさまざまな要件がある中で、今回の実証実験では想定するユーザーがどのような空間をワーキングスペースとして求めているのかを検証することになりました。例えば、黙々と1人で仕事に集中したいのか、それとも、誰かと雑談をするなどしてアイデアを発散させたり気分転換をしたいのか。今回は、「テレワーク下で、アイデアを発散させるようなコミュニケーションを人は求めている」という仮説を検証する形になりました。

酒井コミュニケーションというのは、ここに来る人たちがどんなニーズを持っているのかをコミュニケーションすることで掘り起こそうとしたのか、それとも、こういうところを訪れる人たち同士のコミュニケーション自体を検証しようとしたのか、どちらですか?

坂根さん後者ですね。アプリの方向性にわかりやすい分岐点があったんです。それはマッチング要素を多めにして同じテーブルをシェアするようにするのか、あるいは一人が自分の持っている作業に集中できるようにするか、というところでした。それで、コミュニケーションっていうことを考えた時に、まずは横に座った人とのコミュニケーションが本当に求められているのかどうかを検証していくことになりました。

実証実験を経た今、明確になった答え

酒井今日は実証実験の最終日です。立てた仮説に対して見えてきたことはありましたか?

鈴木さんコミュニケーションに関しては、まだまだ何かを判断できる段階じゃないかなと思います。でも、ほかのところで見えてきたものはあったんです。例えば、実証実験をする以前はONESEATを使う人にとって空席の予約機能は必要だと踏んでいました。でも、実際に足を運んでいる人から話を聞くと、利用する直前に思い立ってきた方が多くて、リアルタイムで空席状況を確認できることの方にニーズがあるのかもしれないと感じました。

坂根さん私の肌感覚としては、いらっしゃる方々はここに集中しにくるっていうよりも、ちょっとした空き時間を楽しみたい方のほうが多い印象でした。それは仕事をする場所を探しているというより、インスピレーションを求めている人のほうが多いのかもしれないってことなんです。そうなると知らない誰かからインスピレーションを得るというのは想像しにくくて、誰が使っているのかという“色づけ”が必要なのかもしれないと思いました。ただ、この実証実験ではカウンター越しに私が立っていたので、私のようなコミュニケーターがいないと、アプリだけでは実現できないことでもあるような気がしています。でも、それだとONESEATが実現したいことには合わなくなってしまうんです。

酒井ユーザー同士のコミュニケーションという側面から考えると、コミュニケーターがいたほうがマッチング自体はうまくいくということですよね。でも一方で恋人をアプリで見つけることに、何の抵抗もない人は増えています。坂根さんが感じた印象と出会い系アプリによる人と人との出会いにはどんな違いがあるのかを考えてみると、ONESEATのターゲットユーザーが抱えるニーズを知る上でもヒントになるような気がします。

坂根さんそうですね。口実としては「作業をする」ということのほうが利用しやすいんだと思います。ただ、インスピレーションを求めるなかで、私のようなコミュニケーターが立っていれば、話しかけやすくなるんですよ。それは、出会い系アプリとは違って、隣の人がどんな目的で空席を利用しているのかわからないからなんだと思います。だから、隣の人がどういった理由を持っているのか、その人に“色づけ”することができるといいんじゃないかと思いました。

酒井なるほど。横で作業している人が今どんなモードなのかフラグを立てることができたら、ONESEATに場の利用以外の可能性をもう少し見つけ出せそうということですね。

国立で見つけた価値と次への可能性

酒井今回の実証実験を通じて得た、それぞれの学びや可能性について教えてください。

坂根さん私は国立市への特別な気持ちがあって、この実証実験に臨みました。そこで気づけたのは、私の知らない層がまだまだ国立にはいるんだってことなんです。例えばどこで作業しようか悩んでいる副業を抱えた主婦の方なんかは思った以上にいらっしゃいました。決して大きなパイではないのかもしれませんが、そういう人たちが街にいることを知れたのは大きいと思っています。

鈴木さん僕自身もここに訪れた人と話をしていて気づくことがありました。それはまだまだ自分たちの発信が届いていない層があるっていうことなんです。ここで話していると、「こういうサービスがあったんですね」と言われることが少なくなかったんですよ。その事実を踏まえたら、もっと頑張って届けていきさえすれば、より多くの人が利用してくれるのかもしれないと、ひとつの希望になりました。

酒井そんな次への糧を得られたお二人にとって、多摩未来協創会議からはじまったこの時間はどんなものになりましたか?

坂根さん一緒にやらせていただけることになった当初は、場が提供できる価値にどうしても重きを置いてしまう私と、グロースすることを中心に考えるONESEATの皆さんの考えの折り合いをつけるのが難しいと感じましたが、グロースすることを念頭に試行錯誤されているONESEAT側の発想に触れる機会になりました。普段の活動では同じ思考・嗜好の方と何かをすることがほとんどですが、普段混ざり合わない方達と、一時的ではありますが同じチームとして共に試行錯誤できたことは、難しさももちろんありましたが、とてもいい時間でした。

酒井ビジネスとしてスケールしていくモデルを基準に考えると、人が介入することを考えるのって難しさを生んでしまう。でも、それを二元論にしておくんじゃなくて、両方とも大事だと思えたっていうのが坂根さんにとってのいい経験になったんですね。鈴木さんはいかがですか?

鈴木さん坂根さんのように地域に根ざした活動をする方々とご一緒することができれば、もっと簡単にことが運ぶと考えていたんです。でもそれが間違いだったとわかりました。例えば店舗開拓ひとつにしても、オーナーさんたちの思いの強さをちゃんと感じることができたんです。空席を飲食目的以外の導線でマネタイズするという僕らが考えた合理性だけでは越えられない壁もあるんだということをちゃんと実感できました。

酒井これからの課題に対して解像度が上がったわけですね。それを踏まえてONESEATは今後どう展開していきたいと思いましたか?

鈴木さんもう少し一つのエリアを掘っていきたいと思っています。国立をベースに、まだまだ検証できることはあると思っていて、これからもそれを続けていきたいです。