共創に向けて始動した、クリエイター同士のインプットの場

「クリエイターのためのビジネスブックレビュー」は、クリエイターが共創へとつながるビジネスに対する理解を深めるための勉強会です。ファシリテーターとなる“当番”が、事前に読んだ参考書籍を紹介し、設定したテーマのもとクリエイター×ビジネスの可能性について議論を深めることを目指します。

初回は多摩未来協創会議のディレクターである酒井博基が進行し、『これからのデザイン経営』を参考書籍に、「デザインを機能させるためのデザイナーの経営への参与の仕方とは?」を議論しました。ビジネスブックレビューの選書も担当する酒井が当日の議論をふりかえります。

●参考書籍:『これからのデザイン経営』永井一史 著(2021 クロスメディア・パブリッシング(インプレス))
●議論テーマ:「デザインを機能させるためのデザイナーの経営への参与の仕方とは?」
●当番:酒井博基/多摩未来協創会議ディレクター、d-land代表、京都芸術大学客員教授

—まず今回の参考図書をどのような視点で選んだのか、また議論を始めるにあたり、この本をどのように紹介したのかを教えてください。

酒井博基(以下「酒井」)初回である今回は、議論を通じてクリエイターがビジネスの理解を深めていくという、この勉強会の趣旨を伝えるのに親和性のある本選びを意識しました。この本自体はクリエイター向けというよりも、企業の経営者をはじめ重要な意思決定のポジションにいる人が、どのようにデザインやデザイナーと向き合っていくのかというもので、デザインの有効性や、ビジネスにおいてデザインに何が期待できるかなどが書かれています。ブックレビューの冒頭では、本の内容はそんなに詳しく解説していません。ただ、私が読んで引っかかっていたのが、この本の中で「デザイン経営」という言葉を説明するときに、「デザイン」という言葉を使って説明されている印象を持ったことでした。そこで、「デザイン」という言葉を使わずに「デザイン経営」という言葉を端的に説明するとしたら…というところから自然と議論が始まっていきました。

—ディスカッションのテーマである「デザインを機能させるためのデザイナーの経営への参与の仕方とは?」という議論へはどう導いていきましたか?

酒井この本の冒頭で、著者である永井一史さんが、「カタチのデザイン」と「考えのデザイン」というふうに、デザインを2つに分けて考えています。これがとっかかりになって、テーマについての議論に入っていきました。今回のテーマ設定は、考えのデザインというのは、ビジネスの計画やパーパスなどの、いわゆる上流工程のところに深く関係があるのですが、現状のデザイナーへのオーダーは、そうした考え方や計画はほぼ議論し尽くされた上で、モノやカタチをつくることを求められるケースがまだ圧倒的に多いのではないか、というところからきています。やはりカタチのデザインと考えのデザインの両方を接続し、うまく機能させるためには、もっと上流工程から関わっていくのが理想的なのですが、デザイナー側にビジネスについての知識や経験がないと、経営者の立場としてはデザイナーをビジネスパートナーとして期待することができない。そこで、考えのデザインからビジネスに関わるためにデザイナーが発揮できる能力って何なんだろう、また、そもそもビジネスパートナーとしてのデザイナー像ってどういう人なんだろう、というようなことを今回のテーマに沿って議論していきました。

考えのデザインを機能させるには、デザイナー自身が、求められるスキルはどこにあるのかという、デザイナーという職種に対する理解があることが必要で、そして単純にビジネスを理解するだけではなく、ビジネスパートナーの考え方や言語に対する理解も必要です。それにはデザイナー自身がまず勉強しないといけないんだろうね、と議論が進んでいきましたが、ある意味これが、このブックレビューという勉強会の趣旨でもあると思います。

—初回のブックレビューを終えた酒井さんご自身の感想はいかがでしたか?

酒井クリエイター同士でビジネスに対する議論をするというのが、とても新鮮だなと感じました。クリエイター向けのビジネスセミナーのようなものはよく見かけますが、わりとハウツー的な内容が多い印象があります。クリエイター同士がビジネスについて議論することで、自身の職種や職能に対する理解が深まっていくような面白さを感じられるのがこの勉強会のひとつの特徴かなと思っています。

—今後、ブックレビューの場でクリエイターと議論してみたいことは何でしょうか。

酒井もちろん議論は続けていきたいのですが、やはりアウトプットも重要だと思っています。クリエイターにとって何かカタチを生み出すことは圧倒的な強みなので、議論とアウトプットは両輪で進めていきたいです。といっても必ずしもカタチをつくるということではなく、例えば企業の方とクリエイターとのアイデア会議のような、セミナーでもなく具体化されたプロジェクトでもない、考えのデザインのアウトプットの場をイメージしています。ブックレビューでの議論や企業とのアイデア会議自体がクリエイターの学びにもなるような新しい場をつくっていきたいです。

クリエイターにとって、企業の思考やリアルな言葉を知ることは、冒頭に話した上流工程の議論とも通じるところがあると思います。アイデア会議はクリエイターには実践へとつながる学びの場であり、企業にとっては、自社が抱える課題に対してクリエイターのアイデアを聞くことができる、壁打ちをして思考を整理するような場として活用してもらえると思います。そうした両者のニーズが合致する学びの場も、1つの共創といってもいいのかなと思います。