同じ目線で対話できる共創のための場とは

「クリエイターのためのビジネスブックレビュー」は、クリエイターが共創へとつながるビジネスに対する理解を深めるための勉強会です。ファシリテーターとなる“当番”が、事前に読んだ参考書籍を紹介し、設定したテーマのもとクリエイター×ビジネスの可能性について議論を深めることを目指します。

今回は『公民共創の教科書』を参考書籍に、「公と民の共創にクリエイターはどう関われるか?」を議論しました。当番を務めたデザイナーの棚橋早苗さんがブックレビューをふりかえります。

●参考書籍:『公民共創の教科書』河村昌美・中川悦宏 著(2020 学校法人先端教育機構)
●議論テーマ:「公と民の共創にクリエイターはどう関われるか?」
●当番:棚橋早苗/デザイナー、たきviva!代表、武蔵野美術大学・明星大学 非常勤講師

—議論を始めるにあたり、まず今回の参考図書をどのように紹介されましたか?

棚橋早苗さん(以下「棚橋さん」)『公民共創の教科書』は、主に著者が取り組んできた横浜市の事例をベースに、民間と行政の共創を考えるというものです。これまでの公民連携は、専門的なスキルや知識が「民」にあっても、「公」が決定権を持って事業を推進していくというケースが多かったということで、ここでは「公民共創」という言葉で、対話を重視して対等な立場で連携していくことの重要性が説かれています。横浜市の事例では、共創のアイデアを提案する総合的な窓口を設置したことで、公民共創が推進されていったということを、まず紹介しました。

—ディスカッションのテーマである、「公と民の共創にクリエイターはどう関われるか?」という議論へはどう導いていったんでしょうか?

棚橋さん共創って一般的に仕事を受注するということとは違い、対話が重要なんです。それも、課題解決の川上のところから一緒に話をしていくことがポイントで、どうしたら敷居の低い良質な対話の場をつくれるか、という議論になっていきました。横浜市の共創のための窓口は、ホテルのフロントのようなイメージで、そこにさらに、窓口よりも手前のロビーのような曖昧な領域があると、どんな立場の人でも同じ目線で自由に話が始められるのではないかと。あらかじめセッティングされた打ち合わせや会議の場ではないことで、色んなアイデアが出たり共創が生まれたりしやすいかも、というところから議論が盛り上がっていきました。このブックレビューを開催している「TAMA NEW VILLAGE」のクリエイターのための場づくりや仕組みも、それに通じるものがあるのかなと思いながら議論を進めていました。

議論の中で出た意見で、そもそも公と民の連携では、民間の専門知識やスキルなど、公にとってのメリットは考えやすいけれど、民にとってのメリットって何だろう、というものがありました。企業側としては当然出てくる疑問だと思います。『公民共創の教科書』にも民にとってのメリットなどもまとめられていましたが、「3PMモデル」という3つバランスの図は、とてもわかりやすい視点でした。これは、市民のメリット・民間企業のメリット・自治体のメリットのバランスで、どこかがかけてしまったり偏ってしまったりすると、なかなかうまくいかないと。そこで対話によってそのバランスが取れるように調整するということが重要になりますが、これは私自身もデザイナーとして普段から仕事をするうえで同じようなことを常に意識していましたし、クリエイターである参加者のみなさんも共感しやすい視点だったのではないかと思います。

—ブックレビューの感想や、今後議論してみたいことがあれば教えてください。

棚橋さん私はブックレビューに毎回参加していて、個人的にはお当番の方の本の紹介の仕方や議論の進め方が、とても勉強になっています。また、今回当番を担当した『公民共創の教科書』は、フレームワークや図がいくつか紹介されていて、自分自身の仕事に役立ちそうなものもありよかったです。

また、今回の議論の中で、「フロントとロビー」の話はとても共感できました。私は「たきviva!」というたき火を囲んでのコミュニケーションのための場づくりをしているのですが、そういう場で人と人が交流することで、次の何かが生まれたらいいなと思っています。対話や議論が盛り上がって、その人たちが持っているパズルのピースがカチッと合うような、ワクワクする場をつくりだしていきたいです。対話から生まれたアイデアも、ファシリテーションの仕方ひとつで全く違うものになったりするので、質の高い対話の場の生み出し方や、出てきたアイデアをどう次の動きにつないでいくかなどについても、今後議論していければ嬉しいです。