ビジネスを俯瞰してクリエイターの立ち位置を考える

「クリエイターのためのビジネスブックレビュー」は、クリエイターが共創へとつながるビジネスに対する理解を深めるための勉強会です。ファシリテーターとなる“当番”が、事前に読んだ参考書籍を紹介し、設定したテーマのもとクリエイター×ビジネスの可能性について議論を深めることを目指します。

『コ・イノベーション経営』を参考書籍とした今回のテーマは、「どうすればクリエイターは経営に参加できるのか?」。当番を務めたWebディレクターの永井史威さんが、当日の議論をふりかえります。

●参考書籍:『コ・イノベーション経営』C・K・プラハラード 著(2013 東洋経済新報社)
●議論テーマ:「どうすればクリエイターは経営に参加できるのか?」
●当番:永井 史威/Hi代表・Webディレクター・エディター

—今回の参考書籍について、どのように紹介しましたか?

永井史威さん(以下「永井さん」)『コ・イノベーション経営』経営学のプラハラード博士によるもので、価値創造は従来、企業側から消費者に向けて一方向的なものだったけれど、両者が共創することで新しい価値を創造していけるのではないか、という提言がされていました。この本は、2004年に出版された『価値共創の未来へ』(ランダムハウス講談社)の復刻版なのですが、その頃はまだSNSも盛んではないし、ビッグデータやサブスクリプションなどのキーワードも世の中では全く出てきていませんでした。それでも本の中では、共創において、消費者と企業が意見交換できるようなプラットフォームの必要性や、膨大なデータから瞬時に選択するようなシステムやインフラの必要性、また、所有しない考え方なども書かれていて、予言的だなという印象でした。ブックレビューの冒頭では、本の内容を詳しく共有するというよりも、こうした自分なりの解釈をお伝えしました。

—議論のテーマである「どうすればクリエイターは経営に参加できるのか?」については、どのように捉えていたのでしょうか。

永井さん当初はそのテーマを考えていたのですが、参考書籍を読んで、少し違う切り口で議論したくなってきました。本では消費者と企業の共創が主題となっていて、今後クリエイターがどうあるべきかということまでは書かれていなかったので、消費者と企業が共創するときに、私たちクリエイターは何ができるのか、というのをみんなで考えてみたくなったんです。

最初は両者の中間領域に立てそうなのがクリエイターなのかなと思っていたのですが、読み進めるにつれて、意外とそうではないところにも可能性があるのかもと。中間領域だけではなく、完全に外にいることもできるかもしれないし、企業側に入ることもできるかもしれない。もしくは一般の消費者とはちょっと違う視点を持った消費者ということもありそうだな、という感じで様々な立ち位置での可能性が見えてきたので、自分の中で答えを持って議論をするというより、わりとフラットな状態で、少し俯瞰した視点で議論したいという気持ちが芽生えてきていました。

—実際に議論をしてみていかがでしたか?

永井さん私が最初に考えていた、消費者と企業間の翻訳家としての機能という発想も出てきましたし、そうではなく、両者が共創するプラットフォームをクリエイターがつくって市場に提供するのもいいんじゃないか、という意見もあったりして、やはり立ち位置の取り方は考える余地があるんだなと感じました。ブックレビューの場は一つの結論を出すことが目的ではないので、予定調和な議論にならなくておもしろかったですし、これまで自分の中に共創というテーマがあまりなかったので、新しい知識をもらったなという気持ちでいます。また、ビジネスを俯瞰してみると、納得できることも違和感を持つこともあったりして、議論のあとは結構モヤモヤした状態になったりもしますが、そのモヤモヤを持っておくことも大事なんだなと思っています。

—今回は、当日の議論からこの先のブックレビューの参考書籍が決まっていきましたね。

永井さん『直観の経営』(野中郁次郎、山口一郎 著 2019 KADOKAWA)ですね。プラハラードの共創の概念は、これまで相容れなかった企業側と消費者側の両方のロジックを一つにして市場をつくっていくというものでした。議論の中で、そこに添えられているスピード感や効率の考え方は、市場を取り巻く資本主義という大きな枠のロジックなんですよね、という話が出ました。ちょっと視点を引いてみると…ということですね。さらに、資本主義は前提としてありつつ、なおかつ人間的なビジネス、という考え方もあるよね、という流れから『直観の経営』になっていきました。

—今後、ブックレビューの場で議論していきたいことはありますか?

永井さんまさに議論の流れで出てきた『直観の経営』はとても楽しみです。クリエイターにとってもビジネスの言語というのは大事なのですが、ビジネスも突き詰めていくと人間的だったりすると思います。数値に変換されないところの経営というか。マーケティング的なロジックでもなく経営哲学とも違う、人間的なビジネスみたいなものがクリエイターにはフィットしている気がします。