手法を活かし“あたりまえ”を問い直すディスカッションの場をつくる

「クリエイターのためのビジネスブックレビュー」は、クリエイターが共創へとつながるビジネスに対する理解を深めるための勉強会です。ファシリテーターとなる“当番”が、事前に読んだ参考書籍を紹介し、設定したテーマのもとクリエイター×ビジネスの可能性について議論を深めることを目指します。

今回は『サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた』を参考書籍に、「“あたりまえ”をどのようにしてクリエイティブに問い直すか?」を議論しました。当番を務めたデザイナーの高見美希さんがブックレビューをふりかえります。

●参考書籍:『サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた』武山政直 著(2017 NTT出版)
●議論テーマ:「“あたりまえ”をどのようにしてクリエイティブに問い直すか?」
●当番:高見 美希/デザイナー

—今回の参考書籍をどのように解釈して場に紹介しましたか?

高見美希さん(以下「高見さん」)『サービスデザインの教科書』は、慶應義塾大学教授で経済学者の武山政直さんによるもので、サービスデザインを語るにあたり、サービスとは何か、デザインとは何か、というのを歴史的なところから解きほぐして、ビジネスや公共におけるサービスデザインの可能性が示されているというものでした。私自身はB to Cのプロダクトデザイナーをしていて、普段は実際の“モノ”をデザインしているので、サービスデザイン自体があまり馴染みのない領域だったのですが、デザインの領域は分断されているわけではなく側面の違いであるということや、サービスデザインの考え方はプロダクトデザインでも似たようなところもあると感じました。

特に、社会の中で暗黙のうちに前提となっている既存フレームを疑い、置き換えることで変革を導くという「リフレーミング」という手法は、自分の感覚としても理解しやすい部分でしたし、今回の議論テーマにある「“あたりまえ”を問い直す」というのはまさにリフレーミングなのかなと思い、そこに焦点を当てて紹介してみました。

—「“あたりまえ”をどのようにしてクリエイティブに問い直すか?」という議論テーマは、どのようなイメージで考えたのでしょうか。

高見さんTAMA NEW VILLAGEには様々なクリエイターが集まるので、例えば「デザイナー」といってもそれぞれデザインの対象も違えば考え方や取り組み方も大きく違うのだろうなと。それを純粋に知りたいと思い、今回のブックレビューのテーマとすることにしました。

—議論テーマのディスカッションにあたっては「SFプロトタイピング」という手法を紹介していただき、みなさんとても興味を持たれたようでした。

高見さん私の夫もデザイナーなのですが、彼から紹介してもらったんです。プロトタイプとして創作したSFストーリーを通じて未来を考えるという手法なのですが、これを議論の呼び水とし、テーマに入っていきました。この手法は、“あたりまえ”ではないSFの世界を小説や漫画といった読み物の形式で共有します。そして、読み手と作り手で対話しながら、世界やアイデアを広げていきます。ビジュアルや音声があるわけではないので、そうしたものにも左右されずに、みなさんご自身の立場からすんなりその世界に入り込んで議論できるようでした。

参考書籍の中で、垂直統合ではなく水平的ネットワークというようなことが書かれていましたが、社会課題を解決するような大きなことは、一つの会社だけでできるようなことではなく、色んなステークホルダーが必要だし、色んな意見を聞かないといけない。そういった面で、SFプロトタイピングというのは様々な人がアイデアを出しやすい手法なのだろうと思います。

—サービスデザインを実現するために、またはサービスデザイン自体を考えるうえでも、“あたりまえ”を取り払うということが重要な要素だったということでしょうか。

高見さん今回のSFプロトタイピングのような手法はサービスデザインの一環で使われることもあると思いますし、公共など様々な領域が関わることについては、よりコミュニケーションが複雑になるので、まず“あたりまえ”を取り払うということは有効なのではと思いました。

—今後、ブックレビューの場でディスカッションしてみたいテーマはありますか?

高見さん私は普段の仕事では、サステナビリティを考慮しながらプロダクトをデザインしていますが、同時にサステナビリティを謳いながら大量生産をする側にいるという葛藤が常にあります。世界中の工場を動かして何万個というモノをつくりだしているということと、自分自身が理想とする世界との落としどころはどこにあるのだろうと。機会があればクリエイターのみなさんと、サステナビリティやエシカルといったことをどう捉えているのかを議論してみたいなと思っています。