社会の枠組みとデザインとの接点を探る

「クリエイターのためのビジネスブックレビュー」は、クリエイターが共創へとつながるビジネスに対する理解を深めるための勉強会です。ファシリテーターとなる“当番”が、事前に読んだ参考書籍を紹介し、設定したテーマのもとクリエイター×ビジネスの可能性について議論を深めることを目指します。

今回の参考書籍は『武器としての「資本論」』。「資本論からデザインを考えてみる」をテーマに、当番として議論を進めたデザイナーの髙野広行さんが、当日の場をふりかえります。

●参考書籍:『武器としての「資本論」』白井聡 著(2020 東洋経済新報社)
●議論テーマ:「資本論からデザインを考えてみる」
●当番:髙野 広行/デザイナー

—議論をはじめるにあたり、今回の参考書籍をどのように理解されましたか?

髙野広行さん(以下「高野さん」)参考書籍である『武器としての「資本論」』では、資本論の要点を、事例などを用いてわかりやすく解説してありました。同時に著者の白井聡さんご自身のイデオロギーとして、資本制に対して割と否定的な視点で書かれているものでもあり、新自由主義の打倒や階級闘争が裏テーマとして掲げられていました。

今回の議論にあたっては、当番としては資本論自体の理解をもう少し深める必要があったのと、テーマである“デザイン”にどう議論を進めていくか、というところで悩みましたが、資本制とデザインがどう結びつくのかというのを軸にして議論したいと思っていました。

—参考書籍や“資本論”について、参加者からはどのような反応がありましたか?

高野さんこれはちょっと意外でしたが、資本制については、そんなに否定的な意見は出ず、どちらかというと著者の姿勢に若干の違和感を感じる、くらいの反応もあったかなと思います。制度をひっくり返してやろうという革命家的な発想ではなく、逆に制度をポジティブに捉えて、その中で自分の思考を使ってどうより良くしていくか、というような。クリエイターやアイデアを持っている人にとっては、システムがどう変わろうとその中でやっていけるという確信のようなものがあるのかもしれないと感じました。

書籍については、資本家の立場で読むのか、労働者として読むのかで、捉え方が違うという議論もありました。クリエイティブ系の方たちはフリーランスや経営者であっても労働者視点に立っていたり、逆にサラリーマンが資本家視点で読み解いていたりと、どちら側に立って読むかで印象が大きく変わってくる本だと思うので、そこは興味深かったです。

—議論テーマである「資本論からデザインを考えてみる」については、どのように議論を広げていきましたか?

高野さん資本論とデザインについては、どう結びつけていくかを悩んでいたのですが。まず時代背景としてアーツ・アンド・クラフツ運動のあたりから探っていきました。日本では柳宗悦さんの民藝運動が始まり、国によって資本制とデザインの関係が全然違うというところから、脱線しながらも議論がいい具合に広がっていったと思います。

—高野さんの中での学びや気づきなどはありましたか。

高野さん北欧の話で制度や政策のデザインという話題が出ましたが、そこは私も日々考えていたようなことでもあり、今までのブックレビューにも出てきた思考のデザインなどともリンクしていたので、そういうことを具体化していくのはすごく面白そうだなと思いました。ただ、国となるととても大きなスケールなので、例えば都道府県、市町村などのように単位を小さくしていって、まずは自分たちが生活するコミュニティにおいて考えてみる、というところから始めるといいのかなと。また、日本のデザインと欧米のデザインの違いについての議論もありました。これは、資源が豊富な国と乏しい国の違いでもあり、改めて自分自身でも日本的なデザインというのを再認識できた話でした。

—今後、ブックレビューの場で議論していきたいことはありますか?

高野さん資本論という枠の広いテーマを、今回は大きく捉えて議論を始めましたが、もう少し的を絞ったテーマで議論もしてみたいですね。あとは、「民主主義」などのテーマも興味があります。当初参考書籍の候補になっていた成田悠輔さんの『22世紀の民主主義』という本では、遠い未来のことについて、ちょっと現実的ではない話や妄想なども含め議論を進めていくのも面白そうだなと思っています。