第8回 多摩エリアのスーパーマーケット

多摩エリアにもたくさんのスーパーマーケットがあります。多くの店が地域密着を掲げ、地域のお客様のニーズに応えるべく事業を行っています。この店の本社は多摩エリア? あの店の本社は都心? スーパーマーケットなので地域密着は当然といえば当然ですが、必ずしも多摩に根付いた企業ばかりではなく、近隣の事業者がエリアを拡大しています。今回はスーパーマーケットのデータベースを活用して、競争が激化する多摩エリアにあるスーパーマーケットの特徴を分析し、地域との関わりについて考えてみました。

監修:多摩大学経営情報学部教授 長島剛

1.多摩エリアにはどんなスーパーマーケットがあるのか

2020年12月30日現在、スーパーマーケットは全国に21,347店舗あり、そのうち2,787店舗が東京都にあります。さらに多摩エリアに絞ってみると、一般的な食品スーパーから高級スーパー、またイトーヨーカドーなどの総合スーパーやドン・キホーテのようなディスカウントショップまで、合わせて654店舗のスーパーマーケットが営業しています。

多摩エリアの店舗カテゴリー別スーパーマーケット店舗数(出典:全国スーパーマーケットマップ 2020年12月30日時点)

その654店舗のなかで、多摩エリアに本社を構えるスーパーマーケットは202店舗で、全体の1/3程度に留まっています。残りの452店舗は、23区内や他県に本社を構えるスーパーマーケットが多摩エリアに店舗展開しているものです。1店舗の売場面積には限りがあるため、スーパーマーケットは地元地域を中心に次第に近隣地域へと店舗を展開していきます。多摩エリアにあるスーパーマーケットを本社所在地別にみると、多摩エリアに本社を構えるスーパーマーケットはそのほとんどが食品スーパーであり、もともと多摩エリアになかったカテゴリーのスーパーマーケットが進出してきていることが分かります。

本社所在地別多摩エリアスーパーマーケット店舗数(出典:全国スーパーマーケットマップ 2020年12月30日時点)

経済産業省によると、食品スーパーは「取扱商品の70%以上が食料品」であり、「売場面積が250平方メートル以上」であること、そして客が売場をまわって商品を選びレジでまとめて会計をする「セルフサービス方式」であることと定義されています。多摩エリアにスーパーマーケットが誕生した1960年代当時、日本は高度経済成長期でした。1965年からスタートした多摩ニュータウンの開発による多摩エリアへの人口流入とともに、現在多摩エリアに足場を固めるスーパーマーケットの初期の出店が始まりました。次第にスーパーマーケットは、それまで商店街に連なっていた八百屋や魚屋、肉屋などの小売り専門店に取って代わる食料品購入場所として、人々の生活の一部となっていきました。

昨今は他地域からの新たな業態のスーパーマーケットの出店に加え、EC(電子商取引)サイトで買い物を済ませる人も増えてきたため、ネットスーパーなどの競合も現れています。このような環境下で、地域のスーパーマーケットはどのような施策を打っているのでしょうか。次章では多摩エリアに本社を構えるいなげや、アルプス、京王ストアの3社について調べました。

2.多摩エリアにおけるスーパーマーケット戦略

多摩エリアのスーパーで最も長い歴史があるのは、立川市に本社を構えるいなげやです。1900年(明治33年)、創業者である猿渡波蔵(さわたり・なみぞう)は、干物や缶詰、味噌、醤油などを扱う稲毛屋魚店を開業。現在のいなげやに受け継がれる「お客様第一主義」の商いが評判を呼び、稲毛屋魚店は繁盛していきました。そして太平洋戦争を経た1948年(昭和23年)に株式会社稲毛屋(現・株式会社いなげや)として再出発します。戦後の物不足で売るものがなかった時代にも、現金で全国の産地の食料品を大量に買い付け、安く消費者へ商品を提供してきました。1956年(昭和31年)になると立川店にセルフサービス販売方式を採用し、いなげやは多摩エリアで最初のスーパーマーケットになりました。また、生鮮センターの高鮮度商品を直接売り場まで配送するコールドボックスを開発し、コールドチェーンをいち早く構築するなど、業界最先端のシステムを採り入れながらチェーン網を拡大し成長を遂げていきました。近年では、「スマくま・ショップリーダー」という、地域や店舗別のデータを分析し、お客様のニーズに沿った商品を拡充するサービスを確立。その結果、地域密着型の品揃えを実現し、ECにも対抗した店舗戦略で売上の向上を図っています。

いなげや日野万願寺駅前店(日野市万願寺)

一方、八王子に本社を構えるアルプスは、1950年(昭和25年)に昭島市で青果店として創業し、1976年(昭和51年)に本部を八王子市へ移転しました。本部所在地である八王子市内を中心に、隣接する多摩東部エリアや神奈川エリア、そして埼玉エリアへと店舗展開をしています。売場は一般家庭で購入頻度の高い食品と日用消耗品雑貨がメインとなり、安い価格帯で回転率の良い品揃え、鮮度の良さをアピールしています。また、地域密着型スーパーとして、地域の子どもたちに向けた野球教室やサッカー教室の開催、「全関東八王子夢街道駅伝競走大会」のメインスポンサーを務めるなど、イベントや地域支援なども積極的に行っています。

京王線沿線に店舗展開する京王ストアは、1963年(昭和38年)に公務員住宅が並ぶ住宅街が完成し始めた小金井市で1号店が開店しました。その後、京王線沿線を中心とした23区西部と多摩エリアに出店し、京王経済圏を基盤とした地域密着型のスーパーマーケットチェーン戦略をとっています。最近では、少子高齢化が進む多摩ニュータウンをはじめ、日常の買い物が困難な地域の住民の利便性向上や、地域コミュニティの活性化を図る目的で移動販売を行っています。移動販売ではお客さんの声を反映しリクエストにも応じるため、消費者のニーズに合った商品が提供できるほか、対話から生まれる信頼性の構築やコミュニティの形成も促進しています。

京王ほっとネットワークの移動販売(日野市南平)

以上のように多摩エリアのスーパーマーケットは、それぞれに地域のニーズを汲み取り独自の戦略とってきましたが、コンビニエンスストアやドラッグストア、ECの台頭など購買チャネルが一段と多様化しているため、スーパーマーケットにとっては、ますます個別戦略が重要となっています。

3.地域のスーパーマーケットは今後も生き残れるのか

スーパーマーケットは地域ごとに異なるニーズに対応し、購買行動の変化にも柔軟に対応してきました。また、2000年(平成12年)頃から成長し始めたECや、市外や他県からの勢力拡大にも抵抗しながら売り上げを伸ばしています。今回は多摩エリアに本社がある食品スーパー3社を調べる中で、地域密着の強みと弱みに共通点があり、この共通点は多摩エリアに限らず地域密着型スーパー全てに共通する特徴だと考えました。

まず、強みの共通点としては、地域のイベントや移動販売などを通じた地元住民との対話により、生の声が聴けるということです。住民の声を直接耳にすることは、地域の特性とニーズを発見するための大きな武器になると同時に、信頼性の構築とコミュニティの形成を行えます。人件費はかかりますが、対人コミュニケーションはECに備わっていないものであり、今後もECと差別化ができる強みです。私たち学生などの若い世代は、買い物をする際、スーパーマーケットが地域に対してどのようにアプローチしているのかはあまり重要視していませんが、高齢者や主婦の方たちにとっては安心感のある働きかけだということが分かります。

一方で、弱みの共通点は人件費問題と話題性の欠如です。人件費問題は、いなげやや京王ストアが加入している日本チェーンストア協会の「チェーンストア販売統計」から見えてきます。1994年(平成6年)からパート数が正社員数を抜き、現在はパート数が正社員数の3倍以上です。このことから、正社員を雇うことで発生する人件費がどれだけ負担になっているのかが分かります。話題性の欠如に関しては、スーパーマーケット業界の根本的な問題です。私たちの生活の一部として溶け込んでいるスーパーマーケットですが、どこのスーパーで買うか迷う時は、距離か値段で判断することがほとんどだと思います。これは、地元スーパーマーケットの近くに安価で大量購入のできる業務スーパーやオーケーなどのディスカウントストアが開店したら行列をつくってしまう市民の動向が、「スーパーマーケット選び」の判断基準を物語っています。この現象は、地域密着型スーパーの独自性や、歴史的背景が市民に伝わりきれていないことが要因だと感じました。

多摩エリアのスーパーマーケットは、人々の生活スタイルやニーズに根差した商品・サービスを磨いてきました。昨今は、スーパーマーケット以外の購買動向の多様化や、ECや物流の発達に伴うスーパーマーケットの競合が台頭しています。今後、スーパーマーケットは消費者ニーズの多様化の中で、そのニーズに柔軟に対応した商品提供や、地域民との対話を続けていくことが、存在意義として重要であると考えました。人と人がつながることで生まれる温かさは、非対面で効率的なECには備わっていないものであり、文化的で豊かな生活を送るうえで必要なのではないでしょうか。

多摩大学ながしまゼミ2年
免田思乃・名古翼・藤田龍斗

※参考文献
1.インターネット