第16回 多摩エリアのプロサッカークラブ

私たちの子どもの頃といえば野球盤に興じ、プロ野球選手はあこがれの職業でもありました。それが1993年のJリーグ発足とともにサッカーブームとなり、子どもたちは誰もが三浦知良選手の真似をして、習い事も野球をしのぐ勢いでした。Z世代にとっては、サッカーは生まれた時からのメジャースポーツです。学生のスマホをのぞき込むと、サッカーゲームをやっていることも多々あります。今回は、そんなサッカークラブの地域との関わりについて調べ、インタビューを行いました。大好きなサッカークラブがどのように地域に関わっているのか。いつもよりもさらに積極的に研究を行っていました。

監修:多摩大学経営情報学部教授 長島剛

1.日本におけるサッカー史とスポーツビジネス

サッカーは現在、全世界でプレーされ、2億5000万人の競技者が熱狂している世界規模で人気のスポーツです。日本でも約436万の競技者に楽しまれていますが、この国におけるサッカーの歴史はまだまだ浅いです。(表1)

表1:日本サッカー史の大まかな流れ
西暦出来事
1873サッカーが日本に伝わる
1929日本が国際サッカー連盟(FIFA)に加盟(その後第二次世界大戦で脱退)
1950日本がFIFAに再加盟
1964オリンピック東京大会で初出場
1965日本サッカーリーグ開幕
1991社団法人日本プロサッカーリーグが設立
1993Jリーグが開幕
出典:笹川スポーツ財団

サッカーが輸入された当時は、「企業スポーツ」として企業がクラブを所有することが主流となっていました。しかし、景気が後退し、経営の縮小化が必要になると、優先的にコスト削減の対象となり、1990年代初頭から2006年に至るまでに、300以上の企業クラブが廃部しました。これは企業スポーツの限界を表した具体的な数値ともいえるでしょう。ここからプロサッカークラブは、新たに「地域に密着したクラブ」になることが求められました。

日本スポーツツーリズム推進機構会長の原田宗彦氏は、自身の著書『スポーツ地域マネジメント 持続可能なまちづくりに向けた課題と戦略』の中で、今後の企業とスポーツクラブの関わり方について3つの見解を示しています。

1つ目は、「所有」から「支援」へと形を変えることです。企業が所有したスポーツクラブを切り離し、自治体や住民からサポートを獲得して地域に密着することで、企業ではなく、クラブを取り巻くステークホルダーに価値を還元するクラブに変身するという形です。

2つ目は、新しい「所有」の意味を模索することです。経営理念に基づいて、企業スポーツをCSR活動の一環として位置づけます。スポーツクラブが持つ社会への影響力を活用し、企業が行う地域・社会貢献活動を世の中へ効果的に発信する媒体としての企業スポーツの新しいあり方です。

3つ目は、ビジネスパートナーとして関与することです。事業体としてのスポーツクラブが企業とパートナーシップを確立し、分配収入を得ることによって、地域に密着したコミュニティビジネスを営むやり方です。日本サッカーのトップリーグであるJリーグは、この形を採用しています。

これらの見解から、クラブにとって地域との良好な関係が、今後はより重要になってくることがわかります。今回のコラムでは、「地域×企業」の視点で多摩エリアにある3つのJクラブ(Jリーグ所属クラブ)に焦点を当て、それぞれのスポンサーに着目することで、サッカークラブが地域に還元できるものについて考えてみたいと思います。

2.多摩エリアのJクラブにおける地域密着度の比較

2022年7月現在、多摩エリアには「東京ヴェルディ」、「FC東京」、「FC町田ゼルビア」の3つのJクラブがあり、それぞれが複数のスポンサー企業に支えられています。この3クラブのスポンサーの中で、本社所在地が多摩エリアにある企業の割合をグラフ化したところ、以下のような数値になりました。

図1:東京ヴェルディのスポンサー企業多摩エリアの割合 出典:東京ヴェルディ公式ウェブサイト

図2:FC東京のスポンサー企業多摩エリアの割合 出典:FC東京オフシャルホームページ

図3:FC町田ゼルビアのスポンサー企業多摩エリアの割合 出典:FC町田ゼルビアオフシャルサイト

グラフを見ると、FC町田ゼルビアのスポンサーの45.8%は多摩エリアに本社を構える企業であり、他の2クラブと比べると大きな差があります。その理由は、クラブの出発地点の違いでした。もともと東京ヴェルディと FC東京は、企業クラブとして活動を始動していました。そのため、この2つのクラブには、親会社や責任企業と呼ばれる代表的なスポンサー企業が存在しています。  

一方で、市民クラブとして始まった町田ゼルビアには代表的企業の存在はなく、創部当時より、小口多数のスポンサーに支えられてきました。同時にFC町田ゼルビアは、クラブの経営面を安定させるため、自らが企業として自立し、収益を上げるための活動を行う必要がありました。少しでも多くの市民にファンになってもらい、スタジアムに足を運んでもらうため、市民クラブはより地域に密着したクラブであることが求められるということがわかりました。FC町田ゼルビアは地域に支えられ育ってきたクラブであるため、地域に対する思いや地域に与える影響が、企業クラブよりも強いのではないかと考えられます。

またFC町田ゼルビアの、多摩エリアに本社を置くスポンサー企業のうち、約90%は地元である町田市の企業でした。この比率の高さから、地元密着のクラブの場合、自治体がクラブと地元企業の間をつなぐ大きな役割を担っているのではないかと推測し、FC町田ゼルビアと町田市役所にお話を伺いました。

3.FC町田ゼルビアが地域密着することで地域に還元するもの

FC町田ゼルビアと地域との関わりについて、町田市文化スポーツ部スポーツ振興課の笹本雄佐氏と、FC町田ゼルビアの地域振興課の野村卓也氏にインタビューを行いました。

まず、FC町田ゼルビアと市役所の関係性について聞いてみました。町田市では、2013年にスポーツ推進条例が制定され、翌2014年からホームタウンチームと協定を締結しました。これをきっかけに、FC町田ゼルビアと町田市の相互協力関係によるスポーツ推進の実施や広報活動やホームゲーム会場の提供などFC町田ゼルビアを町田市が市をあげて支援するなど、さらに強い結びつきになっていったそうです。スポンサーの地元企業については、市が直接紹介や仲介などを行っているわけではありませんが、市のイベントや公共施設を活用し、広報などで周知活動をしています。お互いに協力し合える関係を維持することで、シティプロモーションの一助となることが期待されるほか、市として新しい事業を展開する際に情報交換や円滑に連携できるといったメリットがあるとのことでした。

そのような関係が維持できる理由について笹本氏は、「他の多摩エリアのJクラブと違い、FC町田ゼルビアは1つの市をホームタウンにしているから」といいます。ホームタウンが分散しないことで、1対1のコミュニケーションがとりやすくなり、FC町田ゼルビアと地域がより密接な関係になりやすい環境にあるということです。

一方、FC町田ゼルビアは、行政やスポンサー企業、市民サポーターなどのステークホルダーに対して、「それぞれのステークホルダーが求めるもの」を還元することを心がけているそうです。例えば、企業に対しては、新商品の告知や自社のPRといった広報や、試合チケットなどの福利厚生、また、企業の地域貢献活動に具体的なアイデアやアドバイスを提示するほか、金銭面での支援もしています。

またFC町田ゼルビアは、地域のスポンサー企業同士、あるいは地域スポンサーと行政をつなげるハブのような役割も担っているようです。

「我々がしっかりとハブになっていくことで企業同士が交流しやすくなり、ビジネスに発展することや行政との繋がりが生まれるというメリットがあります」と野村氏。

このようにFC町田ゼルビアは、ホームタウンという強みを活かしながら、「つなぐ力」を通して地域と関わり、地域への貢献を行っていることがわかりました。地域に対する思いを、野村氏は次のように話しました。

「FC町田ゼルビアは地元からの支援を地域の日常の中へ還元し、市民がスポーツに関わるきっかけを提供することを意識してきました。『FC町田ゼルビアがあるから、この地域での生活が充実している』と市民の方々に言ってもらえることを目標としています」

地元地域への思いを持つプロスポーツチームは、様々な役割を通して地域の役に立つ存在となってくれます。そのため、プロスポーツチームは地域にとって大きなメリットであり、お互いに支え合う意義があるということを、お話を伺い感じることができました。
今後はプロスポーツチームが、今以上に地域活性化に貢献する存在として求められる時代となっていくのかもしれません。

多摩大学ながしまゼミ2年
入澤凛・岡村和紀

※参考文献
1.文献
  • ・西崎信男[2017]『スポーツマネジメント入門~プロ野球とプロサッカーの経営学』税務経理協会
  • ・西野努 [2017]『プロリーグとスポーツイベントで学ぶ スポーツマネジメント入門』産業能率大学出版部
  • ・原田宗彦 [2020]『スポーツ地域マネジメント 持続可能なまちづくりに向けた課題と戦略』学芸出版社
2.インターネット
3.インタビュー
  • ・町田市文化スポーツ振興部スポーツ振興課 主任 笹本雄佐 氏 2022年6月29日(水)
  • ・株式会社ゼルビアマーケティング部地域振興課長兼コミュニケーション・マーケティング課長日本食インストラクター 野村卓也 氏 2022年6月29日(水)