第19回 多摩エリアのバイク業界

今回の研究テーマはバイク好きな二人が担当しました。大学生にとって今も昔もバイクは一つの憧れです。免許を取ってツーリングに出かけるだけでなく、アルバイトで稼いだお金を使っての初めての大きな買い物でした。大学のキャンパスにも、ピカピカのバイクに乗ってくる学生がたくさんいます。多摩エリアのバイク事情を把握するために、信用金庫勤務時にお世話になった、事業承継センター株式会社取締役会長の内藤博氏に連絡を取りました。内藤氏はモーターマガジン社に長年の勤務経験もあり、今もバイクに乗られる愛好家です。学生たちと何度もオンラインミーティングを行って頂きました。

監修:多摩大学経営情報学部教授 長島剛

1.バイク業界の現状

私たちは、日頃からバイクを愛する学生ライダーです。多摩エリアにはライダーにとって多くの観光スポットや走るのが楽しい道があるのに、そのことがあまり知られていません。大学が多く若いライダーがいる多摩エリアでの新しい観光コンテンツになればいいと思い、バイク業界について調べてみました。

1980年代の日本では、約1,200万台のバイクが国内で保有されており、「バイクブーム」でした。しかし近年、バイクの保有数は減少し続けています。バイクブームの負の遺産として、暴走族や事故が増え、世間からのバイクに対する批判的な考えが広まってしまったことが理由の一つだと考えられます。「3ない運動」とも呼ばれ、学生に向け「免許を取らせない」、「買わせない」、「運転させない」をスローガンとした日本の社会運動が起こりました。この社会運動によって学生がバイクの免許を取りにくくなっていきました。以下のグラフからは、二輪車購入者の若者割合が減ってきているのとともに、国内のバイクの保有台数も年々減っていることが分かります(グラフ1、2)。2021年度にはコロナウィルスの影響もあり若干の回復もありますが、50代以上の割合は7割近くあり、高齢化は進んでいます。

以上のバイク業界の現状から、今後もこの業界は全国的に衰退していくのではないかと予測できます。しかし、多摩エリアには大学が多く、通学にバイクを使う学生もたくさんいます。また、相模湖や奥多摩周遊道路などのツーリングスポットも豊富なため、多摩エリアでは全国と比較してバイク業界の衰退は緩やかなのではないかと考えました。今回はこの仮説について、東京都立川市にある『プロショップ西郷』西郷善治(さいごう・よしはる)氏にお話を伺いました。

グラフ1
引用: 一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車市場動向調査 2021年度 https://www.jama.or.jp/release/docs/release/2022/20220420_2021Motorcycle.pdf

グラフ2
引用:一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車市場動向調査 2021年度 https://www.jama.or.jp/release/docs/release/2022/20220420_2021Motorcycle.pdf
※原付第一種:50cc以下、原付第二種:51cc~125cc、軽二輪:126cc~250cc、小型二輪:251cc~400ccとする。

2.販売店の声と取り組み

西郷氏によると、今後は「バイクの販売は増えていく」と考えているとのことです。これは、私たちの考えとは異なったものでした。西郷氏がこのように考える理由は、主に三つあります。一つ目は、現在の学生の親世代が、子供にバイクを勧めていることで、若者ライダーが増えてくと考えるからです。親がバイク好きであると、子供にもバイクを勧める方が多いです。現在の学生の親世代は、日本において最もバイクが普及していた1980年代に、普通二輪免許を取得できる年齢になった時期とも重なります。したがって、バイク全盛期を過ごした親世代は、子供にバイクを勧めるケースも多いということです。二つ目は、新型コロナウイルスによる影響です。普段、交通手段として電車やバスを利用している方も、新型コロナウイルスの感染拡大により、密を避ける移動手段としてバイクの需要が高まりました。この再熱したブームをきっかけに、再びこの業界が盛り上がっていくことを期待しているとのことです。そして三つ目は、バイクのEV化による影響です。近年、自動車のEV化に引き続きバイクのEV化も注目されつつあります。西郷氏がこのEV化で最も注目しているポイントは、騒音がガソリン車と比べて非常に静かであるという点です。世間からのバイクのイメージを下げている原因として、騒音問題が大きな比重を占めていると思われます。音が静かなバイクの登場はこの業界に大きな影響を与えることになるでしょう。しかしながら、現段階では充電スタンドの普及や航続距離の技術などが追いついておらず、一般的に普及するのはまだ先になるであろうと西郷氏は考えます。

また、多摩エリアの状況については、私たちが考えたように、大学とツーリングスポットという二つの要因から、他地域と比べてライダーは残っていくことも、多摩エリアの特徴であると西郷氏はいいます。とはいえ、先ほど示したデータを見ていくと、バイク業界衰退の懸念も拭えません。ここ数年はコロナウィルスの影響で回復傾向にあるものの、長い目で見ると、何かしらの対策を施さなければ、このまま衰退していく可能性も少なくありません。それでは、西郷氏のような個人の販売店では、どのような対策を行っているのでしょうか。プロショップ西郷では、安全運転を普及させる取り組みをしています。世間的にバイクのイメージを悪くさせている原因の一つとして、バイクが危険な乗り物であるということが挙げられます。そこで、西郷氏は安全にバイクに乗ってもらうための、「SAIGOライディングスクール」を毎月開催しています。そこでは、一般の教習所では教えてくれない、安全に乗るための様々なテクニックを指導しています。そうすることで、バイクの事故が減り、より多くの人にバイクに乗ってもらえるようになることを西郷氏は期待しています。

3.バイク業界を活性化させるためには

今回の取材を通し、多摩エリアでのバイクシーンを盛り上げていくため、私たち学生にできることは何か考えました。そこで多摩大学でバイクサークルを作り、西郷氏の様な個人販売店と協力できるようなイベントがあれば面白いのではないでしょうか?イベントの内容は、まず西郷氏が行なっているバイクスクールへの参加とツーリングです。バイクの基本を学びツーリングスポットに行くことで、バイクの楽しさや多摩エリアの魅力に触れてもらう事ができます。ツーリングスポットに関しては、多摩大学から出発し、相模湖→さがみ湖リゾート プレジャーフォレスト→ワイルドクッキングガーデンでBBQを楽しんでもらいます。これを月1回5〜6人程度の参加者を募り、多摩エリアの各大学を巻き込んで行います。サークルの人数が増えれば1回の人数を増やすのでは無く、月2回など活動を増やし少人数で活動します。少人数で活動することにより一人当たりの会話の回数を増やし、絆を深めていきます。今の大学生があまり持っていない「人との繋がり」ができ、繋がりを作ることで今まで知らなかったバイクの知識や余った部品の交換など、サークルに入っているだけでもメリットがあるようになれば、バイクが無くらない限り持続的な組織になれます。まだ提案の段階ですが、うまく活動することができればバイクの良さも広がり、上手くいけばツーリングスポットの周りの飲食店や個人販売店も活性化されていくと考えます。

今の私たちにできる事は少ないですが、少しずつ活動を積み上げて行くことで、バイク業界は盛り上がっていくのではないかと考えます。現在新型コロナウイルスの影響で少しずつですが、若いライダーが増えてきているようです。私たちの世代がバイクの長所にスポットを当て、より安全な楽しみ方を発信することで、「人との繋がり」を作り地域活性化に貢献できる存在として、バイクに対する認知を広めていきたいです。

多摩大学ながしまゼミ2年
植松恒太・加川陽空

※参考文献
1.文献・論文
2.インタビュー
  • 事業承継センター株式会社取締役会長の内藤博 氏 2022年10月5日、10月12日、10月26日、11月16日
  • (有)プロショップ西郷 代表取締役 西郷善治 氏 2022年11月7日