第20回 多摩エリアの食と農の強みと企業の関わり方

地域に根差した食と農への関心は、大学の近くのうどん屋にランチで訪れた経験から深まり、さらに地元農産物の特徴があることもわかってきました。大学の授業などの学びから食と農が地域活性化に寄与することは理解していますが、地方では一般的な食と農による地方創生の取り組みが、郊外都市の文脈では必ずしも馴染まない場合も多そうです。今回は、郊外都市である多摩エリアにおける、食と農と企業との関わりについて考察しました。

監修:多摩大学経営情報学部教授 長島剛

1.東京都100年フード認定第1号

「食」は私たち人間が生きていくうえでとても大切なものです。人間は、昔から地域ごとの特徴に合わせて、食の文化を発展させてきました。その結果、様々な味や食感を持つその土地ならではの料理が生まれ、それが現代では観光資源としての役割を担うようにもなっています。大阪のたこ焼き、香川の讃岐うどん、山形のいも煮など、誰もが知る有名な郷土料理は日本中にあります。多摩エリアにも、このように全国で知られているような郷土料理はあるのでしょうか?

表.文化庁が認定した関東の「100年フード」
都道府県名料理の名称
茨城県鮒甘露煮、ほしいも、牛久ワイン、笠間の栗菓子文化
栃木県しもつかれ、宇都宮餃子
群馬県焼きまんじゅう、桐生うどん、嬬恋くろこ、群馬のソースカツ丼
埼玉県草加せんべい、五家宝、妻沼のいなり寿司、煮ぼうとう、狭山茶、武蔵野地域のうどん文化(武蔵野肉汁うどん)、フライ・ゼリーフライ、こしがや鴨ネギ鍋
千葉県太巻き祭りずし
東京都武蔵野地域のうどん文化(小平糧うどん、村山かてうどん)、桜鍋を中心とする馬肉食文化、桑都・八王子のふるさと料理~桑都焼き・かてめし
神奈川県小田原蒲鉾、曽我の梅干し、厚木のとん漬、大山のきゃらぶき、サンマーメン
(出所)文化庁公式サイト「全国各地の100年フード」

文化庁では、日本の多様な食文化の継承・復興への機運を醸成するため、100年続く食文化「100年フード」の継承を目指す取り組みを推進しています。東京都と埼玉県の食文化として100年フードに認定された武蔵野地域のうどんは、古くから武蔵野台地で食されてきた手打ちうどんです。昔から田んぼが少なく、主に小麦などの穀物が耕作されていた小平市でも、正月や盆などに畑で収穫した小麦を手打ちうどんにする風習があったそうです。うどんにはネギなどの薬味や旬の野菜が添えられ、「小平糧うどん」として継承されてきました。こうした手打ちうどんの文化は小平周辺の地域にも残っており、貴重な食文化として保存していこうという活動も展開されています。

大学の近くの店で食べられる小平糧うどん

また、当コラム「第7回多摩エリアの外食産業」で取り上げた八王子ラーメンも、八王子市発祥の料理として広く知られ、カップ麺として全国で販売されるほど有名なご当地グルメとなっています。ほかにも、東村山市の「焼きだんご」や奥多摩町の「のしこみうどん」のように多摩エリアで知られる郷土料理は確かにありましたが、あまりアピールされていないものもあるようでした。

私たちは観光資源としての食と農の可能性について、「こだいら観光まちづくり協会」の事務局長である出口拓隆氏にお話を伺いました。

2.小平市はブルーベリーの名産地!

令和3年に100年フードに選ばれた「武蔵野地域のうどん文化」に含まれる小平糧うどんは、今も世代を超えて市内や周辺地域で広く愛されています。出口氏によれば、手打ちうどんであり大量に作るのが非常に大変なため、メディアなどでPRすることによって提供するお店に負担がかからないよう、あえて大々的なPRは控えているとのことでした。

一方で小平市は、日本におけるブルーベリー栽培の発祥の地として知られています。この地でブルーベリー栽培が始まったのは1968年で、日本で「ブルーベリーの父」と呼ばれる東京農工大学の故岩垣駛夫教授が中心となり、日本の気候に適したブルーベリーをアメリカから取り寄せて栽培を開始しました。こだいら観光まちづくり協会では、ブルーベリーを使ったメニューや商品のPRも行っています。

最近では学生と連携して開発した、ブルーベリーを使ったモナカや団子などの商品を販売し、用意した100食が短時間で完売するなど、観光資源としてのブルーベリーPRの成果が確実に出ているそうです。

小平市のブルーベリー。「生のブルーベリーを5~6個一気に食べるのがおすすめ」と出口氏

最後に、同協会が小平市の食と農を観光資源としてPRしている目的について伺ったところ、「小平市は訪れてよし、住んでよし。食と農をPRすることで、もともと小平に住んでいる人にはそのまま住み続けてもらえるように、小平を訪れてくれる人にも住みたいと思ってもらえるように、人口減少への1つの切り口として考えています」と出口氏は教えてくれました。

3.食文化の承継と企業の社会貢献

今回、私たちが地域の食と農を調べて感じたことは、観光資源としてその地域特有の食と農を取り上げるには「ここでしか食べられない」「わざわざ食べに行きたい」という特徴が必要なのだという事でした。多摩エリアの食と農は地域の人たちに愛され継承されてきた一方で、観光目的ではない地方創生も工夫できるところがまだありそうだと感じました。「地域×企業」でタッグを組み、食と農で共にまちを発展させていくということもできそうです。

多摩エリアには大小さまざまな企業があります。例えば、それらの企業に地域への貢献として、観光PRを目的としたイベントのお手伝いをしてもらうなどが考えられます。企業は多くのマンパワーや資金、設備や敷地を保有しています。何より、地域への貢献となる取り組みは、企業にとってもその地域との距離を縮める機会となるはずです。技術的な専門知識、マーケティング戦略、効率的な生産プロセス、人材管理などのビジネスで培ったノウハウがあります。それらを本業として、また社員のプロボノ活動(ボランティア)として地域に提供していくことも考えられます。地域の食と農が、企業をハブとして様々なノウハウによって維持されていくと共に、企業や従業員にとっては、スキルの向上、モチベーションや満足度向上、企業イメージのアップにもつながります。

また、企業の社員食堂のメニューとして地域の郷土料理を食べてもらうという案もいいかもしれません。新鮮で栄養豊富な食事は、社員の体調管理に寄与し、地域の農家から直接仕入れることで地域経済の活性化に貢献します。さらに、食材の輸送距離が短くなることで環境負荷を軽減させ、企業の環境への配慮を社員が実感することができます。大きな企業であればあるほど社員数も多いため、1日だけでもかなりの売り上げになり、地域への貢献と食のPRへつながると考えられます。地域食材を活用することで、社員の健康を支え、地域社会への貢献を実感し、企業価値への誇りを深めることができます。さらにこれらの取り組みは、社員間のコミュニケーションの活性化にも繋がり、一体感のある職場環境を作り出すことが期待されます。

このように食と農を軸に、自分たちが暮らし働いているまちを豊かにしていくというのはWell-beingなまちづくりに貢献する取り組みだと思います。

多摩エリアは都心から近く交通アクセスがいいほか、住みやすいなどの魅力もあります。地域の食と農を、外の人が食べに来たくなるような観光資源にするだけでなく、企業とも積極的にコラボしていくことで、地域の魅力を伝えるエネルギーになるのではないでしょうか。

多摩大学ながしまゼミ2年
永井誠十・横田涼真

※参考文献
1.インターネット
2.インタビュー
  • こだいら観光まちづくり協会 事務局長 出口拓隆 氏 2023年12月25日