第22回 多摩エリアのショッピングセンターと大学生
多摩エリアでは、昭和から平成へと時代が移るにつれ、大企業の工場跡地などを活用して大型のショッピングセンターがいくつもできました。例えば、日産村山工場跡地にイオンモールむさし村山が、沖電気八王子工場跡地にイーアス高尾が開業しています。これら郊外型のショッピングセンターは、日用品の購入、飲食店の利用といった多様なニーズを一か所で満たせる場所として広く利用されており、映画館や遊戯施設も併設され、休日には多くの家族連れで賑わいます。インターネットの普及やコロナ禍の影響を経て、これらのショッピングセンターがZ世代の学生たちにどのように捉えられるのか。現状調査をしながら、大学生がどのように貢献できるかを考えてみました。
監修:多摩大学経営情報学部教授 長島剛
1. ショッピングセンターの定義と現状と多摩エリア
一般社団法人日本ショッピングセンター協会は、ショッピングセンターを「一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体」とし、「生活者ニーズに応えるコミュニティー施設として都市機能の一翼を担うもの」と定義しています。同協会が国内外のショッピングセンターの動向やデータの推移をまとめた『SC白書2024』によると、近年、ショッピングセンターは開業する施設数を、閉鎖・閉業する施設が上回り、その総数は2017年をピークに減少しています。
2023年末の全国のショッピングセンターの総数は、3,092です。前年に比べ約40施設ほど減少しました。閉業の理由としては建物の老朽化、競合激化、人口減少など、地域の消費環境の変化が挙げられています。一方で総店舗面積は増加しており、そこには大型ショッピングセンターの開業が影響していると考えられます。また全国のショッピングセンターの総売上高の推移をみると、コロナ禍での大きな落ち込みからは回復しつつあることも分かりました。(グラフ1)
みなさんは、多摩エリアのショッピングセンターというとどこを思い浮かべるでしょうか。例えば武蔵村山市にある多摩エリア最大の店舗面積を誇る「イオンモールむさし村山」や私たち多摩大学の最寄り駅である京王線の聖蹟桜ヶ丘駅にある「せいせき 京王聖蹟桜ヶ丘ショッピングセンター」など、多摩エリアには110を超えるさまざまなショッピングセンターがあります。
一方、新宿や渋谷、銀座など都心部のショッピングセンターを思い浮かべてみると、多摩エリアのショッピングセンターとは施設の構成や客層など違いがありそうです。『SC白書2024』の情報をもとに、東京23区と多摩エリアのショッピングセンターを比較してみました。表1を見ると、23区のショッピングセンターの総数は多摩エリアに比べ約120施設多いです。しかし1施設当たりの店舗面積の比較をすると、多摩エリアの方が1,400㎡も大きいことが分かります。
施設数 | 総施設面積(㎡) | 一施設当たりの平均面積(㎡) | |
---|---|---|---|
東京都 | 347 | 5,238,396 | 15,096.24 |
東京都23区 | 233 | 3,407,030 | 14,622.45 |
多摩エリア | 114 | 1,831,366 | 16,064.61 |
次に、地価を比較してみます。表2のように、東京23区は1㎡あたりで考えると多摩エリアに比べ、何倍も平均価格が高いことが分かります。多摩エリアよりも地価が高い都心では、広大な敷地の確保は難しいと考えられます。地価が高い分、出店する店舗の賃料は高くなります。
東京23区
施設名 | 市区名 | 1㎡あたりの平均価格(円/㎡) |
---|---|---|
NISHIGINZA | 中央区 | 1,490,800 |
三井ショッピングパーク アーバンドックららぽーと豊洲 | 江東区 | 539,400 |
多摩エリア
施設名 | 市区名 | 1㎡あたりの平均価格(円/㎡) |
---|---|---|
イオンモールむさし村山 | 武蔵村山市 | 124,000 |
せいせき 京王聖蹟桜ヶ丘 ショッピングセンター | 多摩市 | 189,500 |
入居するテナントは、都心は高級ブランドやトレンドを意識した最新のファッションブランド、高級レストランなど、高額な賃料を支払えるテナントが並び、多摩エリアは地域住民やファミリー層をターゲットにした総合スーパーやカジュアルなファッションブランド、家族で楽しめる施設などで構成されている印象です。
ショッピングセンターを中心としたまちづくりをする企業は、実際にはどのような視点で施設づくりをするのでしょうか。ショッピングセンターの構成や都心と多摩エリアでの違いについて、私たちは株式会社JR中央線コミュニティデザインへインタビューを行いました。
2. 多摩エリアのまちづくりとショッピングセンター
株式会社JR中央線コミュニティデザインは、多摩エリアを中心に中央線や南武線などの駅周辺や沿線地域の魅力向上を目指し、地域住民や地域企業、地方自治体などと連携しながら様々な取り組みを行っている企業です。「CELEO」や「nonowa」などのショッピングセンターの運営、一部の沿線駅の運営に加え、教育機関と連携したプログラミング教室や地域に根差したイベントの企画運営など、幅広い分野でサービスを提供しています。同社が開催する中央線ビールフェスティバルでは、2022年は4日間で38,000人、2023年では4日間で55,000人が来場し、新しい需要を創造しました。(JR中央線コミュニティデザイン「つながるひろがるACTION」参照)
新領域創造本部 地域活性化部の矢島陽介部長と、同チーフの宮城信太郎氏にお話を伺いました。お二人は、ショッピングセンターは「35年ビジネス」だとおっしゃっていました。1980年以降、車社会に対応できる大きな駐車場が併設されたショッピングモールが郊外に増え、そこから35年で今の社会で抱える課題が生まれてきました。ショッピングセンターは建物の老朽化で改築工事が必要になり、そのタイミングで閉鎖してしまったり、駅前の商業施設とは異なる独自の色を残すことが重要になったりと、生き残るために様々な課題を乗り越えなければならないからです。日本ショッピングセンター協会のデータからも、開業30年以上のショッピングセンターの継続の難しさを推し量ることができます。
矢島氏と宮城氏によると、ショッピングセンターを開発する際にまず重要なのは、地域の商店街や既存の個人商店などとの交渉です。新規の駅ビルがオープンすれば利用客が集中し、商店街などの利用者は減少してしまいます。開発によりただショッピングセンターをつくるだけでなく、その地域住民の理解を得る必要があるとのことでした。そのため地域とのつながりを生み出し、開発を進めるために地元の商店街の方と話し合いを重ねます。地域からは、ショッピングセンターをつくるにあたり、飲食店など地域の個人経営店を入れてほしいという要望が出ることもあり、実際に新規のショッピングセンターに商店街のお店が入居することもあるそうです。しかし都心の場合は地価が高いため、安定して継続的にテナント料を支払えるチェーン店などが多くなってしまい、独自の色を出しにくい状況だそうです。一方で多摩エリアは都心に比べると地価が低く、多種多様な店舗開発がしやすいとお話しされていました。
マーケティングの面では都心は様々なエリアから利用客が訪れますが、多摩エリアでは立川の店舗などでは国立以東からの来客はほぼなく、立川より西からの利用客が多いということです。お二人のお話の中で特に気になったのは、「ブームが1年半で西に移る」ということです。例えば新宿に1号店を出店したドーナツ店は、都心で複数の店舗を展開していましたが、年を追うごとに売り上げが下がり閉店した店舗もたくさんありました。そのブームが西側に移り、現在は立川など多摩エリアで再度人気を博しているとお話しされていました。都心で流行していても近くに店舗がないため購入できないという状況が、潜在的なユーザーを増やし、多摩エリアに出店した際の盛り上がりを生み出すと考えられます。
最後に今後のショッピングセンターの展望を伺いました。お二人は、今後は都心よりも多摩エリアのショッピングセンターの魅力が増していくのではないかとお話しされていました。35年ビジネスであるショッピングセンターは、開発で建物を建てればその費用を施設の利益により回収しないといけません。結果的に、前述の通り都心では安定的な収益を見込めるテナントで構成され、多摩エリアでは比較的テナントの幅を広げやすいため、ショッピングセンターごとに個性を出しやすいということでした。
3. 多摩エリアのショッピングセンターに対して私たちができること
調査や分析、インタビューなどを通して、多摩エリアのショッピングセンターについて私たちなりに理解を深めることができました。矢島氏、宮城氏のお話の通り、多摩エリアのショッピングセンターは都心に比べて地域との関りを維持し、地域に求められる施設として個性を出し魅力を高めていける可能性を持っています。
そこで個性を出していくという視点で、私たちが地域の学生として関われることを考えてみました。開業からある程度の年月が経つショッピングセンターでは、空きテナントが課題になっているところもあると推測します。空いてしまった店舗のスペースを、地域の複数の大学が連携して借り、「学生コミュニティー店舗」にするのはどうでしょうか。学生が主体となり地域活性化のためのプロジェクトやビジネスを立ち上げることで、ショッピングセンターの個性を出す一助となることができるのではないかと思います。例えば、多摩大学では経営情報学部の松本祐一ゼミが、奥多摩町と連携してワサビを使ったビールや餃子づくりに取り組み、聖蹟桜ヶ丘駅のショッピングセンターの催場で販売をしたことがあります。この様な取り組みを、形を変えて近隣の大学も巻き込んで地域のビジネスにしていくことは十分にできると思います。各地域のショッピングセンターの空きスペースで、その土地周辺にある大学や高校などと連携して、地域資源を活用した商品販売などを行い個性を出していくことができれば、都心部との差別化にもつながります。またショッピングセンターと大学が連携することで、地域とのつながりを増やし地域貢献につながる新たなプロジェクトや活動が生まれるのではないでしょうか。
今回の記事執筆にあたり初めて多摩エリアのショッピングセンターについて調査をしましたが、課題を地域と共有することで、課題の解決が魅力あふれるショッピングセンターづくりにつながる可能性を感じました。
多摩大学ながしまゼミ3年
高橋和磨、八木海仁
- (1) 一般社団法人日本ショッピングセンター協会HP https://www.jcsc.or.jp/ (閲覧日: 2024-07-18)
- (2) 株式会社JR中央線コミュニティデザインHP https://www.jrccd.co.jp/company/
- (3) 国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/